31-Jul-2025
キリフィッシュの脳においてタンパク質翻訳の停滞が老化を促進している
American Association for the Advancement of Science (AAAS)Peer-Reviewed Publication
キリフィッシュの脳では、決定的に重要なDNA結合タンパク質およびRNA結合タンパク質の産生が老化によって選択的に阻害されており、そのことが老化の特徴に寄与している、と新たな研究が示している。この知見は、老化と神経変性疾患などの病態のリスクとの関係について理解を進展させるものである。「次の重大なステップは、翻訳調節が神経変性疾患などの老化関連疾患と複雑に関連している哺乳類、特にヒトにおいて、これらのメカニズムが保たれているかどうかを究明することである」と、Olivier DionneとBenoit Laurentは関連するPerspectiveで述べ、「これによって、老化に関連した病態の発症を遅らせ、究極的には健康寿命を延ばすことを目的とした、薬理学的なプロテオスタシス修正戦略の開発にかかわる情報が得られる可能性がある」としている。生物は老化に伴い、タンパク質恒常性、すなわちプロテオスタシスを維持する能力が低下する。プロテオスタシスは、タンパク質の適切な合成、フォールディング、適時の分解が確実に行われるようにすることで、タンパク質の品質維持に決定的に重要な役割を果たしている。プロテオスタシスの破綻は、老化と神経変性疾患の両方の特徴である有害なタンパク質凝集体の蓄積につながる可能性がある。老化に関連したプロテオスタシスの破綻は、その他の老化の特徴的プロセスの崩壊と共に現れる場合が多いものの、プロテオスタシスの異常が能動的にこれらの変化を引き起こしているかどうかは不明なままである。
このギャップに対処するため、Domenico Di Fraiaらはキリフィッシュ(Nothobranchius furzeri)の脳において老化がどのようにmRNAとタンパク質調節に影響を及ぼすかを調査した。キリフィッシュはライフサイクルが短く、老化した脳の特徴が維持されるため、老化研究に非常に適したモデルである。著者らは、プロテアソームを経時的に部分的に阻害する方法を開発し、生きている動物でこの特定の異常が老化に関連する脳の変化を引き起こすかどうかを明らかにした。著者らはリボソームプロファイリング(Ribo-seq)を用いて、老化の際にmRNAの翻訳における変化がタンパク質産生にどのように影響するかを観察した。Di Fraiaらは、魚の老化に伴い、RNA結合およびDNA結合に極めて重要なリジン、プロリン、グルタミン、アルギニンなどの塩基性アミノ酸に富んだタンパク質が、これらのタンパク質のmRNAレベルに変化がなくても、減少することを発見した。著者らはこの減少を、塩基性アミノ酸のコドンにおけるリボソームの停滞と関連づけ、これが翻訳を阻害し、タンパク質凝集リスクを高め、これらの必須タンパク質の産生を減少させているとした。これらの知見は、老化がコア遺伝子の発現やミトコンドリア機能に不可欠なタンパク質の合成を選択的に阻害していることを示唆しており、プロテオスタシスの低下は他の老化の特徴の上流に位置づけられる可能性がある。
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