Hippoシグナル伝達経路(臓器の発生に中心的役割を果たすと考えられている遺伝的プログラム)がハエとマウスにおいて正常な臓器の成長を指示しないことが、新たな研究で示された。この知見はHippoシグナル伝達の役割に関する長年の考え方に異議を唱えるものであり、癌や臓器再生など、他の生物学的状況におけるこの経路の機能を再評価する必要性を示唆している。Hippoシグナル伝達経路は、正常な臓器の成長の主要制御因子であると広く考えられている。ハエやマウスを用いた研究で、Hippo経路の一部に変異が生じると臓器の過剰増殖に至る可能性があることが示されている。これらの観察結果に基づいて、コアキナーゼの機能喪失変異または転写コアクチベーターであるYap/Taz/Ykiの過剰発現により、細胞増殖、細胞生存および組織増殖を誘導する遺伝子の発現がアップレギュレートされることが示唆されている。Yap/Taz/Ykiは、臓器の成長期には活性があり細胞増殖を促進するが、臓器が完全に成長すると不活性化されると考えられている。しかし、すべての知見がこの標準モデルに当てはまるわけではない。Weronika Kowalczykらは、翅や眼などのショウジョウバエ成虫原基細胞に由来する構造ならびにマウスの肝臓において、臓器成長におけるHippoシグナル伝達の機能を再評価した。現行のモデルとは対照的に、Kowalczykらは、Hippoシグナル伝達をなくしても、対象とした臓器が正常な大きさに成長する能力が損なわれないことを明らかにした。さらにKowalczykらは、Yap/Taz/Ykiの転写活性が細胞増殖や正常な臓器発生とは相関しないことを見出した。Kowalczykらは、Hippo経路が正常な臓器の成長を指示しないことを発見した一方で、過剰増殖に必要な複数のHippo経路遺伝子を同定した。このことは、Hippoシグナル伝達が、異所性の臓器発生につながる異常な遺伝プログラムを活性化する役割を果たすことを示唆している。
Journal
Science
Article Title
Hippo signaling instructs ectopic but not normal organ growth
Article Publication Date
18-Nov-2022