38年にわたる欧州アルプスの衛星画像から、気候変動によって積雪の減少し、植物生産性が増加する「緑化」現象が進んでいることが明らかになった。この研究結果は、高山が緑化すればこの地域の炭素隔離は進むものの、雪と植生の間のフィードバックによって、温暖化の増幅、永久凍土の融解、生息地喪失の増加など、顕著な環境変化が将来起こりやすくなることを示唆している。山岳地帯は生物多様性のホットスポットであり、重要な生態系サービスを数多く提供している。例えば、山岳氷河の融氷水と雪は、世界の淡水資源の半分近くを占めている。しかし、山岳環境は気候変動に敏感でもあり、地球平均の約2倍の速さで温暖化している。そのため、北極圏と同様に、高山帯の積雪や植生生産性に影響が及ぶことが予想される。欧州で最も高く広大な山脈である欧州アルプスにおいて影響を確かめるため、Sabine Rumpfらは地球観測衛星ランドサットの画像を用いて、1984~2021年の積雪と植生生産性について空間的・時間的傾向を評価した。その結果によると、積雪は大幅に減少しており、調査した面積の10%を下回っていた。一方、植生生産性は、調査地域のうち高木限界より高い地帯の77%で増加していた。こうした緑化と積雪減少のフィードバックループから示唆されることは、緑化が続くことによって融雪が加速すれば、この地域のアルベド(太陽エネルギーを反射する能力)が変化したり、永久凍土が融解して温室効果ガスが放出されたり、生態学的構造が崩れたりといった重大な影響が出て、脆弱な高山の動植物がさらなる危険にさらされる可能性があるということである。
Journal
Science
Article Title
From white to green: Snow cover loss and increased vegetation productivity in the European Alps
Article Publication Date
3-Jun-2022