核融合閉じ込め装置で用いられるクライオ吸着ポンプは、活性炭を用いたポンプで、小型でも大きな排気容量が得られるという特長があります。
従来のクライオ吸着ポンプでは、活性炭を極低温パネルに貼り付けるのに有機接着剤が使われていました。ところが、この有機接着剤は経年劣化で活性炭が脱落したり、接着剤から不純物が放出されたりする課題があり、高い真空度を必要とするLHDの真空容器の中で直接使用することはできませんでした。そこで研究所では、メーカーと共同で、金属を用いて活性炭と極低温パネルを接着するという画期的な方法を考案しました。この新たな無機接着法により、従来の課題を克服し、LHDの超高真空中でも使用可能なクライオ吸着ポンプの開発に成功しました。
開発した無機接着法では、融点が約150度と低い、インジウムという金属を接着剤として用います。ところが、インジウムは銅製の極低温パネルとは十分に接着するのですが、活性炭とは相性が悪く、単純に接触させるだけでは、十分な接着力を得ることは困難でした。活性炭と金属をしっかり接着させるためには、活性炭と金属が良く馴染み、活性炭の多くの穴の中に金属が侵入する必要があります。そこで、活性炭の極低温パネル側(接着面)の表面上に、スパッタ法を用いて、インジウムとは異なる金属の膜を作ることにしました。この方法により、活性炭のナノレベルの穴に金属の原子や分子が侵入して、金属が木の根のように入り込み、活性炭としっかりと密着する金属膜を作ることができます。さらに、様々な金属の相性を調べて、それぞれ異なる金属でできた3層の膜を作り、活性炭とインジウムの間に挟みこむことにしました。まず、活性炭と接する1層目には活性炭と相性の良いチタンを、インジウムと接する3層目にはインジウムと相性の良い銀を成膜します。そして、1層目のチタンと3層目の銀の間の2層目には、それらと相性が良いニッケルを成膜します。2層目のニッケルはインジウムがチタン層まで浸透するのを防ぐ、バリアの役割も担います。このように、活性炭と極低温パネルの間に、スパッタ法で相性の良い金属の膜を隣り合わせて作ることで、強い密着力を生み出す接着法を確立し、これまで困難とされてきた活性炭と極低温パネルの金属による無機接着に成功しました。
また、数種類の活性炭から、水素ガスの排気に最も適したものを選出しました。さらに、排気効率を大幅に改善するため、コンピュータシミュレーションに基づいて、水素ガスをミクロ孔に導く経路を最適化しました。これらの改良と金属による無機接着を行って開発した新クライオ吸着ポンプをLHDの真空容器内に設置し、排気テストを行った結果、排気速度が従来に比べて7倍以上に向上しました。今後この新ポンプは、水素ガスの流れの制御を通して、高温プラズマを長時間維持する研究に大きく貢献することが期待されています。さらに、開発した無機接着法は、特許「クライオ吸着パネル及びその製造方法、並びにそれを用いた真空装置」(特許第6021276号)を取得しており、既存の装置へもそのまま転用できるため、高温プラズマ実験装置だけでなく、高真空で清浄な環境が要求される半導体や液晶ディスプレイの製造装置など、産業界への幅広い応用も期待できます。なお、その他クライオ吸着ポンプ開発全般に関する論文は、プラズマ・核融合学会誌(2017年5月号、P213)に掲載されました。
1) ダイバータ
LHDのダイバータの模式図(断面)を図1(c)に示します。高温領域から流れ出たプラズマの粒子やプラズマにならなかった水素ガスの粒子は、ダイバータレッグに沿って流れ、最後はダイバータ板に衝突してポンプで排気されます。水素ガスは、プラズマ側に逆流するとプラズマを冷やす原因になりますので、排気は重要です。
###