種の遺伝的多様性は個体数の激変が原因で減少すると考えられることが多いが、リョコウバト(Ectopistes migratorius)のゲノミクスについての新しい研究により、個体群の規模が大きく安定している種でさえ突然の環境の変化を受けると絶滅の危険があることが判明した。リョコウバトはかつて北米で最も繁栄した種であった。個体群の規模が大きいと一般的に遺伝的多様性も高いとされているが、最近の研究でリョコウバトの遺伝的多様性は驚くほど低かったことが示されており、これは個体数の激変を暗示している。Gemma Murrayらは今回、統計モデルを用いてリョコウバトの祖先の個体群を推測し、その繁殖地域での個体数は安定していたばかりか、これまでの予想よりも多かったことを発見した。個体数の安定にもかかわらず遺伝的多様性が低下した経緯を調査するために、Murrayらは地域の異なる4羽のリョコウバトの核ゲノムを分析し、その核ゲノムと現存する最も近い近親種であるオビオバトの核ゲノムを比較した。その結果、リョコウバトの個体群の規模が大きいことは結果的に遺伝子コードのほぼ「ヌル」な変異につながり、それは種の総合的な適応性に影響しないことを発見した。その一方で遺伝子コードの多様性の高い領域では、オビオバトのゲノムと比較してより強くより速く有利な遺伝子の選択が起こり、これらの有利なDNA群は個体群の中に続いて定着していた。これは有り難い情報だと思われるが、特定の有利な遺伝子を維持するための強力な選択は遺伝的多様性の低下も引き起こす。予期しない環境の変化を受けると、特定の特徴で遺伝的類似性が高くなったリョコウバトは、おそらく生存のための必要となる特徴は維持しておらず、絶滅しやすかったとMurrayらは述べている。
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