ScienceとScience Advancesに掲載された6つの新しい研究で、宇宙探査機オシリス・レックス(OSIRIS-REx)からの結果が提示されたとともに、地球近傍小惑星ベンヌについての知見も明示された。NASA(アメリカ航空宇宙局)のオシリス・レックス(OSIRIS-Rex:Origins(起源)、Spectral Interpretation(スペクトルの研究)、Resource Identification(資源の確認)、Security(安全性)、Regolith Explorer(レゴリス探査機))ミッションの主要目的は、ベンヌ ―― 母天体からはじき出された炭素の豊富なラブルパイル天体 ―― の表面からサンプルを採取し、分析のために地球に持ち帰ることである。2018年末のベンヌとのランデブー以降、オシリス・レックスは詳細な軌道調査とベンヌ表面の偵察を実施し、ベンヌの組成と構造についてのデータを収集するとともに、2020年10月20日に予定されているサンプル採取に適した地点を特定した。これらの研究で出された結果からはベンヌの歴史についての情報が得られ、また、2023年に地球に持ち帰ることになっているサンプルの状況も知ることができる。
Scienceに掲載された3本の研究の1つ目では、Daniella DellaGiustinaらがベンヌ表面の光学的な色と反射率を地図に記録したマルチスペクトル画像を提示している。ボルダーとクレーターの色とアルベドの違いを比較することにより、彼らはベンヌの表面が宇宙の風化作用によって複雑に進化してきた過程を推測している。2つ目の研究では、Amy Simonらが赤外分光法を用いて、有機分子や炭酸塩鉱物といった炭素を含む物質がベンヌ表面の大部分に広がっており、特に個々のボルダーの上に集中していることを示している。Scienceの3つ目の研究では、Hannah Kaplanらがオシリス・レックスの主なサンプル採取地点であるナイチンゲールと呼ばれるクレーターの解像度の高い画像とスペクトルを提示している。彼らはその地点のボルダーの一部に明らかに赤外吸収のある明るい鉱脈を発見し、それらは炭酸塩鉱物だと示唆している。その鉱脈は太陽系の初期にベンヌの母天体で流水と反応して形成されたと考えられる。
Science Advancesの1つ目の研究では、Michael Dalyらがオシリス・レックスのレーザー高度計(OLA)を使ってベンヌの観察を行った。彼らはOLAのデータを用いて解像度20cmのベンヌの3Dモデルを作成して岩塊構造を測定し、ベンヌは南半球が丸く滑らか、一方北半球は勾配が急で形が不規則であることを発見した。Science Advancesの2つ目の研究では、ベンヌのラブルパイル構造を形成するボルダーの物理的特性を調査している。Ben Rozitisらは熱赤外データを用いてベンヌのボルダーの表面粗さと熱慣性を測定し、ベンヌは鉱物組成が同じで色とアルベドは異なる2種類のボルダーで形成されており、これらは独特な構造特性も持つと考えられることを発見した。Science Advancesのこのシリーズ最後の研究ではDaniel Scheeresらが、ベンヌの弱い重力場での宇宙探査機オシリス・レックスの動きとベンヌ表面から放出された小石サイズの破片の軌道を追跡した。彼らはそれらの動きをモデル化し、それによってベンヌの重力場の分布を確認することができた。この研究結果は、ベンヌの岩塊の集積密度は均一ではなく、赤道と中心部は密度が低いことを示している。Scheeresらは、ベンヌ特有の「コマ」型は過去の高速回転もしくは以前の表面崩壊に起因すると結論付けている。
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