News Release

ウマが持つ際立って高い身体能力の背景には独自の遺伝子変異がある

Summary author: Walter Beckwith

Peer-Reviewed Publication

American Association for the Advancement of Science (AAAS)

際立って高いウマの運動耐久性の背景には、エネルギー産生を高める一方で細胞を酸化ストレスから保護する遺伝子KEAP1の変異が隠されていることが、研究により明らかにされた。今回の知見は、自然が生み出した最も運動能力の高いウマという生物の独自の進化的適応に光を当てるものであるが、臨床医学にとっても重要となる可能性がある。また今回の知見は、ウイルスだけにみられる生存戦略と考えられていた新規終止コドンの再コード化が、いかに脊椎動物でも適応を促進し得るものであるかも示している。ウマはこれまで歴史上、その走るスピードと耐久力で尊重されてきたが、特にその体の大きさに比して、その驚くべき生理学的適応によって際立った耐久性を伴う走力を有している。ウマが酸素を取り込み、体内で輸送し、利用する能力が極めて高いことは広く認められており、その最大酸素摂取量(VO2max)はトップレベルの人間の運動選手の実に2倍以上である。ウマの骨格筋における高いミトコンドリア濃度は、エネルギー産生を高めてその優れた運動能力を可能にするが、同時に組織への大きなダメージと細胞の機能不全の原因となり得る活性酸素種(ROS)の産生を促す。ウマが、その際立ったミトコンドリア活性のもたらす酸化ストレスに対処するために進化させてきた分子メカニズムは、依然として不明である。

 

こうした知識のギャップに取り組むためGianni Casiglioneらは、196種の哺乳動物を対象に、レドックスバランスとミトコンドリアによるエネルギー産生の制御において主要な役割を担っているKEAP1遺伝子について進化解析を行った。KEAP1遺伝子は運動科学では重要な標的であると認識されており、肺がんや慢性閉塞性肺疾患(COPD)など複数のヒト疾患との関連が指摘されてきた。Castiglioneらは、現生のウマはロバやシマウマとともに、KEAP1遺伝子における未成熟終止コドン(UGA)を含む独自の遺伝的適応を進化させてきたことを見出した。系統ゲノミクス、プロテオミクス、およびメタボロミクスによる解析、ならびに生組織の分析を用いた結果、ウマの場合、コードするタンパク質が短縮されるのではなく、上記の終止コドンが効率的にシステイン(C15)に再コード化されてこの遺伝子の機能が増強されることが分かった。これらの所見によれば、この単一点突然変異が、酸化ストレスを軽減するタンパク質NRF2の産生阻害を抑制して、ミトコンドリア呼吸とATP産生を促進する。NRF2活性の過剰亢進は他の哺乳類では有害となり得るのに対し、ウマでは上記の適応進化がバランスの取れた、すなわちミトコンドリアのエネルギー産生を高めつつ酸化ストレスを制御するという解決法となっている。


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