軍医は、軍内の地位が低い患者よりも地位が高い患者に対して良い治療を行うことが、150万人の患者を対象とした新しい研究で示された。この知見は、多くの場合、権力のない者の犠牲のもとに、権力者が臨床でよりよいリソースと支援を享受しているというエビデンスを示している。「われわれが懸念しているのは、医師が効率的に作業するために必要と考えられる、医師と患者の権力の不均衡そのものではない」と著者らは述べている。「そうではなく、その権力の行使における不公平な差である。歴史的にそうであったように、最も脆弱な患者がこの不均衡のしわよせを受ける可能性が高い。」
権力は、人間の社会規範やシステムのほぼ全ての面に広範な威力を及ぼしているにもかかわらず、実世界のデータで研究することは非常に困難であり、実世界で権力ダイナミクスがどのように発揮されているかは理解しにくい。特に重要で損も得も大きい権力ダイナミクスの1つが、医師と患者の関係である。この権力差は通常、医師が有利であり、医師は自分のケアに頼っている患者に対して、知識、臨床資源、法的権限を支配している。これは医師が常にすべての患者に対して利他的かつ倫理的に行動するという社会的期待に基づいている。Stephen SchwabとManasvini Singhは、米国軍医療システム(MHS)において、医師-患者の権力の差がどのように患者のケアに影響するかを検討した。MHSは、権力に明確で確立された階層があるため、理解しにくい個人間の権力差を理解し定量化する新しい方法を提供できる。このシステムでは、医師と患者の両方が現役の軍人であり、ともに明確な階級が割り当てられている。患者の地位が医師の地位に近いか高いときは、権力の差が小さくなり、医師や患者の振る舞い、そして結果として提供されるケアと患者の転帰に影響が及ぶ可能性がある。
MHS救急部門を受診した150万人の患者を含むデータセットを用いて、著者らは、「高権力」の患者(医師よりも地位が高い患者)は医師から多くの労力と臨床リソースを受け取り、地位が同じ「低権力」の患者よりも健康転帰が良好になったことを明らかにした。患者の地位が上がると医師の労力が増え、高権力の患者に対する優先的な治療は退職後何年にも渡って継続した。その後の解析から、権力のある患者は無意識に臨床リソースと労力を低権力患者から奪う可能性があることが示された。SchwabとSinghは、低権力患者を診察する直前に高権力患者の診察を行った医師は、多くの場合、低権力患者に対して与える労力が少ないことも明らかにした。この研究から得られたもう一つの重要な知見は、このような権力ダイナミクスが患者の人種や性別によってどのように影響を受けるかに関する洞察であった。著者らは、白人医師は黒人患者にかける労力が一貫して少なかったことを明らかにした。この影響は黒人患者の地位が高いほど緩和されたが、地位が高くても低権力白人患者が受けるケアと同等になる程度にケアが良くなっただけであった。性差も影響した。「医師が完全に利他的であり、権力によって堕落することがないという神話に対処する教育や医療制度が失敗していることを含めて、権力の側面をよりよく理解するための努力が依然として必要である」と、関連するPerspectiveでLaura Nimmonが述べている。「医療が制度的、教育的、組織的な取り組みを通じてこの有害な問題に意味のある対処をすることを妨げているのは、おそらくこの神話である。」
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Journal
Science
Article Title
How power shapes behavior: Evidence from physicians
Article Publication Date
17-May-2024