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大気中の硝酸ラジカルが花の香りを分解し、花粉媒介者と植物の相互関係を阻害する

Peer-Reviewed Publication

American Association for the Advancement of Science (AAAS)

米国ワシントン州における野外実験などを行った新しい研究によると、大気汚染物質によって花の魅力的な香りが変化することで、夜行性スズメガによるマツヨイグサの授粉が減少するという。この研究結果は、人為的な大気汚染物質が動物の嗅覚に影響を及ぼすことを示すとともに、こうした汚染物質によって地球全体で授粉が制限される可能性を示唆している。人間の活動は環境を大きく変えてきた。感覚汚染物質(人為的な騒音、人工光、化学汚染物質)は、これまでにない刺激をもたらしたり、動物の感覚系が受け取る自然発生的な刺激を変化させたりすることで、動物の行動や適応度を変えてしまう可能性がある。オゾン(O3)や硝酸ラジカル(NO3)などのオキシダントをはじめとする大気汚染物質は、花の香りを生み出す化合物を分解することが知られている。花粉媒介者の多くは、食物を探しながら、花の香りに誘われて長距離を移動する。空中を浮遊する汚染物質があると、昆虫が花を見つけ出して授粉することが困難になるため、植物と花粉媒介者の相互関係はこうした汚染物質の影響を特に受けやすいと考えられている。しかし、天然の香りが分解されることで花粉媒介者の嗅覚行動や植物の適応度にどのような影響があるかについては、ほとんど解明されていない。

 

Jeremy Chanらは、夜行性スズメガによるマツヨイグサの仲間(Oenothera pallida)の授粉に、オキシダント(O3とNO3)がどのような影響を及ぼすのか調べた。砂漠に咲くこの花は、強力な香りを放って、さまざまな花粉媒介者を引きつける。Chanらはワシントン州東部における野外観察と室内実験を通して、NO3(一部の汚染地域で夜間に多く見られるオキシダント)が花の発する特定の香り化合物を急速に分解することによって、夜に採餌するスズメガは花を感知できなくなることを見出した。この研究結果によると、NO3はO3よりもはるかに反応性が高かったという。また、スズメガは花を認識する際に、花の香りに含まれるモノテルペンという特定のサブセットを利用しており、NO3はこれを選択的に酸化していたという。香りが酸化したことで、スズメガが花を訪れる回数は70%(±20%)減少した。これによって植物の結実と適応度も減少したと考えられる。また、Chanらが地球規模のモデルを用いたところ、多くの都市部ではO3とNO3による大気汚染レベルが高く、花粉媒介者が花を感知できる距離が大幅に短くなっていることが実証された。


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