優占沼沢植物種の根の成長における形質の急速な進化は、結果として、海面上昇に対するレジリエンスといった沿岸湿地の構造や機能に生態系レベルの変化をもたらす可能性があると、研究者らは報告している。この研究結果は、生態系機能の調節における進化過程の作用はこれまで考えられていた以上に大きいと推測され、環境変化への生態系の反応を予測する際には、進化過程を考慮に入れる必要があることを示唆している。沿岸湿地 ―― 一般的に植物種多様性は低い ―― では、優占植物種が多くの場合、土壌の発達や堆積物の付着に寄与することによって生態系エンジニアとして機能しており、これによって湿地は何千年にもわたって海面の変化に遅れずに対応できてきた。その上、これらの植物の急成長は、沿岸湿地の土壌の分解速度の遅さも合わさって、生態系が炭素を大量に蓄える能力を持つことにもつながった。ただ、優占沼沢植物種の形質や成長がこういった過程に寄与する仕組みを示す研究は増えているにもかかわらず、現在進んでいる環境変化への生態系の反応を予測するモデルでは、形質の変異と進化の作用はほぼ見過ごされている。著者らによると、この原因の1つは進化過程が生態系の変化の重要な推進力であるかどうかを示す実証的研究が不足していることにあるという。Megan Vahsenらは今回、世代をまたいで隣接する湿地に広がるシードバンクから「復活させた」植物を使って、優占沼沢植物種であるSchoenoplectus americanusの16の遺伝子型に関する一般的な庭での研究を報告している。Vahsenらの研究では、地下部バイオマスの配分と分布に、注目に値する生態学的に有意義な遺伝的変異と急速な進化があることが明らかになった。そして、この研究結果を沿岸湿地の生態系モデルに組み込むと、沿岸湿地の炭素隔離と土壌表面付着の予測が変わった。この結果は、これらの植物が、海面上昇に対するレジリエンスや大気中の炭素の貯留ポテンシャルなどの生態系レベルのプロセスに対して下流部分でかなりの影響を及ぼす速度と規模で進化する可能性があることを示していると、Vahsenらは述べている。「したがって、生態系モデルにおいて遺伝的変異と急速な進化的変化を考慮しないと、環境変化に対する生態系のレジリエンスにおける生物の反応の作用を誤って評価してしまい、それで生態系レベルの予測がシステマティックに変わってしまう可能性がある。」
Journal
Science
Article Title
Rapid plant trait evolution can alter coastal wetland resilience to sea level rise
Article Publication Date
27-Jan-2023