Iosif Lazaridis、David Reichらは3本の研究を通して、長い間「西洋文明発祥の地」と考えられてきた南東ヨーロッパから西アジアにまたがる地域、いわゆる「南アーチ(Southern Arc)」の総合的なゲノム史を提示している。この地域一帯の700人を超える人の新たに配列決定された古代DNAを調べたこの研究では、最古の農業文化から中世後までの人々の複雑な歴史が明らかになった。比較的最近まで、南アーチの古代史の多く ―― 地域住民にまつわる話や人の集団について ―― は、その地域の考古学的データと数千年にわたる歴史的な記述や文書を参考に語られてきたが、今回は古代DNAの革新的な配列決定が新たな歴史的情報源となった。互いに関連のない3本の研究で、Lazaridisらは今回、777人の遺骨から抽出した古代DNAを用いて、新石器時代(~紀元前10,000年)からオスマン帝国時代(~紀元1700年)までの南アーチの詳細なゲノム史を作成した。今回の研究結果として、数千年にわたってこの地域を形成してきた複雑な移住と人々の交流が詳述され、以前に現在の住民の歴史や古代の文書と美術を頼りに描写した初期インド・ヨーロッパ文化は正確ではなかったことが示唆された。
1つ目の研究:「南アーチの遺伝子史:西アジアとヨーロッパの架け橋」では、最新のデータセットを提示するとともに、金石併用時代と青銅器時代(紀元前5,000~1,000年頃)を重点的に分析している。この分析では、ユーラシア大陸の大草原地帯と南アーチの間で大規模な遺伝子交換があったことが明らかになったとともに、ヤムナ草原地帯の牧畜家の形成とインド・ヨーロッパ語の起源を解明するための新たな手掛かりも得られた。2つ目の研究:「メソポタミアの古代DNA、陶器時代前と陶器時代の新石器時代に明らかにアナトリアへの移住があったことを示す」では、陶器時代前の新石器時代のメソポタミア、メソポタミアの新石器革命の中心地の初の古代DNAを提示している。研究成果として、陶器時代前の新石器時代から陶器時代の新石器時代にかけてのアナトリアの推移は、肥沃な三日月地帯の中心地からの2回の明確な移住の流れと関係があったことが示された。3つ目の研究:「南ヨーロッパと西アジアの古代史と中世史を探る遺伝子プローブ」では、南アーチの有史時代の古代DNA解析に重点を置き、ミケーネ人・ウラルトゥ人・ローマ人といった集団についての不明点の多かった人口動態と地理的起源を明らかした。
関係するPerspectiveではBenjamin ArbuckleとZoe Schwandtが、「Lazaridisらの研究は古代ゲノム研究にとって重要な画期的研究で、西ユーラシア大陸の人類史の解明を次なる段階へと進める豊富なデータセットと様々な観察結果を提供している」と書いている。彼らは、Lazaridisらは「わずか10年前には予測できなかった驚くべき規模のデータセット」を制作したとする一方で、その解釈における課題と限界も浮き彫りにし、3本の研究を通した調査から導き出された主張の多くはヨーロッパ中心の世界観だと述べている。
Journal
Science
Article Title
The genetic history of the Southern Arc: a bridge between West Asia and Europe
Article Publication Date
26-Aug-2022