長さ1.7メートルの牙の中の同位体から、17,000年以上前に生存していた一頭の北極マンモスの生活史が再現され、マンモスが壮大な距離を移動していたことを示す初のエビデンスが一部示された。この発見は、今は絶滅しているマンモスの生活、たとえばお気に入りの生息地や生涯にわたる広大な行動圏などを知る手掛かりとなった。マンモスは最も広く研究されている氷河期を象徴する動物の1種であるにもかかわらず、化石からだけだと、マンモスの生活における静的で、特異的でありがちなことしか推測できないため、自然界でのその生活史についてはほぼ分かっていない。しがたって、マンモスの行動圏や移動範囲 ―― この大型動物マンモスは生涯を通してどこをどう移動していたのか ―― については概ね解明されていない。しかし、日常的な壮大な距離の移動は親戚である現存するゾウやその他の北極圏の動物の移動パターンの特徴であることから、マンモスもそれらと似た行動を取っていたと考えられる。はるか昔に絶滅したマンモスの移動パターンを潜在的に再構築する1つの方法として、生存中に歯と牙に取り込まれた酸素およびストロンチウム(Sr)の同位体分析を行うとい手段がある。土と植物の中のストロンチウム同位体比(87Sr/86Sr)はその下の基盤地質を反映し、それは地勢にわたって異なる。動物らがこれらの植物を食べると、その地域の87Sr/86Srパターンが細胞内に取り込まれる。したがって、マンモスの牙などの生涯を通して伸び続ける組織の中の87Sr/86Sr比は、動物の長期にわたる移動の追跡に使える記録である。Matthew Woollerらは、現在のアラスカ本土に17,100年以上前に生息していたオスのマンモスの牙を使用して、高時間分解能同位体記録をまとめ、そのマンモスの28年という生涯の移動の詳細を明らかにした。この記録によって、広大な地理的行動圏内を繰り返し移動した経路が示されたとともに、そのマンモスが28年間でアラスカをあまねく移動し、それはほぼ地球2周に相当することも分かった。またこの結果から、そのマンモスが、群れとともに移動した幼い時期や若い時期、より広い範囲を移動した動き盛りの成体期そして最期の数年など、様々なライフステージにしばしば訪れた地域も明らかになった。最期、このマンモスはアラスカ北部の狭い地域で餓死したと考えられる。
Journal
Science
Article Title
Lifetime Mobility of an Arctic Woolly Mammoth
Article Publication Date
13-Aug-2021