ケトン体(アセト酢酸、βヒドロキシ酪酸)はブドウ糖や脂肪酸とともに、エネルギー源として利用されることが知られている代謝産物です。通常の状態ではケトン体はミトコンドリア内でアセチルCoAに分解され、クエン酸回路を経てエネルギー源になります。ケトン体は特に、飢餓状態における代替エネルギー源であることが知られていますが、心臓における具体的な利用率や病態での変化などは分かっていませんでした。
今回の研究では、心臓カテーテル検査を行なった患者様を対象に、心臓を動かすための血液を供給する血管網(冠循環)の入り口(大動脈基部)と出口(冠静脈洞)から採取した血液サンプルを解析して、ケトン体が心臓でどの程度取り込まれているかを調べました。
解析の結果、通常状態において冠循環を血液が通過する間に、およそ35%のケトン体が消費されていることが確認されました。また、冠循環の血流が低下した状態(心筋虚血状態)においては、ケトン体の利用率が著しく低下することを確認しました。心筋虚血状態では嫌気性代謝が亢進して乳酸産生が増加しており、酸素を必要とするミトコンドリア機能が障害されます。ミトコンドリア機能が障害されるとケトン体が利用できなくなりますが、この変化はわずか数分の間で生じるダイナミックな変化であり、心臓が絶えず動きながらも、エネルギー源を速やかに切り替えていることを示しています。
研究を主導した有馬勇一郎助教は次のようにコメントしています。
「今後はこの特徴を理解した上で、心臓が効率よくエネルギーを使うための研究や、心臓病の新たな治療法の開発が期待されます。」
本研究成果は、科学ジャーナル「Journal of American College of Cardiology」に2019年1月14日(東部標準時 午後2時、日本時間 15日午前4時)に掲載されます。
[Source]
Arima, Y. et al., 2018. Myocardial Ischemia Suppresses Ketone Body Utilization. Journal of the American College of Cardiology. Available at: http://dx.doi.org/10.1016/j.jacc.2018.10.040.
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Journal of the American College of Cardiology