News Release

ダウン症関連遺伝子が加齢による角膜混濁を抑止することを発見

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

Schematic Diagram of Pathological Changes in Corneal Angiogenesis

image: DSCR-1 acts as a brake against abnormal NFAT activation and oxidative stress, but if it does not work, high cholesterol increases LDL oxidation (OxLDL), SDF-1/CXCR4 signaling in the endothelium is activated, and VEGF production in macrophages increases. These activations result in vascular invasion of the normally vascular-free and clear cornea, resulting in opacity (clouding). view more 

Credit: Professor Takashi Minami

熊本大学の研究者グループが、ダウン症と高コレステロール血症のモデルマウスを用いた加齢解析により、ダウン症関連遺伝子DSCR-1が、慢性的な高コレステロール時での酸化LDLの産生とその下流の新たなSDF-1/CXCR4シグナルを抑制することで、角膜への異常な血管侵入とそれに伴う失明・角膜混濁を防護することを明らかにしました。これまでダウン症では早期老化に伴う神経病態の悪化だけでなく、逆に加齢による血管疾患に罹りにくいことが疫学データから想定されていましたが、その原因となる詳細な候補遺伝子や機構については明らかにされていませんでした。今後、DSCR-1がダウン症関連遺伝子としてだけでなく、動脈硬化や高血圧といった幅広い血管病の治療関連遺伝子としてクローズアップされることが期待されます。

人類遺伝学上最も高頻度に生じる先天性疾患であるダウン症は、現代医療の進歩と共に劇的に長寿化が進んできました。その結果、ダウン症の成人期では早期アルツハイマー、弱視、筋力低下が起きやすいなど、長寿化に伴う新たな問題も浮上してきています。しかし、こうした神経系と異なり、ダウン症の成人期の血管は老化病態に非常に強い抵抗性をもち、固形がん(白血病などの血液がん以外のがん)だけでなく、動脈硬化や高血圧にならないことが分かってきました。また、コロナ禍で全身血管炎として着目された川崎病にもならないことが報告されています。そこで、その原因となるダウン症染色体上の遺伝子発現や、染色体数が異なることによるエピゲノム変化などの、副次的影響を交えた包括的なゲノム解析と病態解析が重要となってきています。

ダウン症は、21番染色体が通常2本のところ3本になることで発症します。ダウン症関連遺伝子(DSCR-1)はこの21番染色体に位置する遺伝子で、血管新生に関わるシグナルを抑制する機能を有します。本研究では、このDSCR-1を強く機能発揮させた高発現マウス、機能をなくした欠損マウスを、高コレステロール血症のモデルマウス(ApoE欠損マウス)と掛け合わせ、加齢による影響を解析しました。高コレステロール状態、つまりApoE欠損で顕著にみられる角膜混濁がどのような仕組みで生じ、DSCR-1高発現で防護され、DSCR-1 欠損で悪化するのか、その病態シグナルを網羅解析しました。

解析の結果、DSCR-1欠損マウスでは角膜の炎症が進み、加齢による角膜混濁がわずかに認められましたが、ApoE欠損マウスと掛け合わせることで劇的に増悪しました。DSCR-1はダウン症発症の主因となるNFAT転写因子の抑制機能や抗酸化機能を基に生後の恒常性を守っています。DSCR-1欠損によってNFATが異常に活性化し、末梢血管では 血管新生作用をもつ生理活性物質SDF-1やその受容体 CXCR4のシグナル伝達機能が活性化され、角膜近傍からの血管新生やリンパ管新生が亢進しました。さらに、DSCR-1欠損により酸化LDLが増え、それによる血管内皮でのSDF-1産生や浸潤マクロファージでの 血管新生促進因子「VEGF」産生が亢進し、結果的に角膜での病的な血管新生が引き起こされ、角膜が濁る仕組みが明らかになりました。なお、この病態は SDF-1 の機能を中和する抗体を投与することで大幅に軽減されました。

研究を主導した南敬教授は次のようにコメントしています。

「本研究結果により、ダウン症遺伝子DSCR-1の防護的効果として、これまでのがん増殖抑制(Nature 2009)、敗血症でのサイトカインストームの抑制(J.Clin.Invest.2009)のみならず、高コレステロール環境下での病的血管新生においても抑制しうることが明らかとなりました。またヒト角膜病変患者においてもNFAT/DSCR-1シグナルが関与するデータを得ており、加齢による血管疾患防護にNFATやその下流で機能するSDF-1をブロックする薬剤が有効であることが示唆されます。」

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本研究成果は,ATVB(Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology)のオンライン版に令和2年8月13日 (日本時間)に掲載されました。

Source:

Muramatsu, M., Nakagawa, S., Osawa, T., Toyono, T., Uemura, A., Kidoya, H., � Minami, T. (2020). Loss of Down Syndrome Critical Region-1 Mediated-Hypercholesterolemia Accelerates Corneal Opacity Via Pathological Neovessel Formation. Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology, 40(10), 2425�2439. doi:10.1161/atvbaha.120.315003


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