臨床試験が行われている複数の抗癌剤候補は、対象としている分子標的と相互作用するのではなく、オフターゲット効果で腫瘍細胞を殺傷していることが、新しい研究で示された。この予期せぬ知見は、これらの薬剤の標的が癌細胞の生存に不可欠ではないこと(その重要性に関する180件以上の過去の報告に反して)を示しており、有効だと思われる抗癌薬が臨床への適用に失敗することが多い理由を説明する一助となる可能性がある。前臨床及び臨床試験で試験されているほとんどの抗癌剤は、毒性が強すぎるかヒトには無効であることが判明するためにFDAの承認を受けられない。しかし、なぜこのように多数の候補物質でこのような問題が生じるのかは不明である。Ann Linらは以前、低分子OTS167が、指定された標的以外のタンパク質を阻害することで癌細胞を殺傷したことを発見した。今回の研究では、LinらがCRISPR遺伝子編集を用いて、180件を超える出版物で癌細胞の生存に重要であると報告されている6種類のタンパク質のうち1つを標的とした10種類の他の抗癌薬の機構を検討した。検討した薬剤は、合計1,000例を超える患者を対象とする29種類以上の臨床試験で使用されており、多発性骨髄腫を対象として試験が行われているcitarinostatおよびricolinostatなどの著名な候補薬を含んでいる。RNAサイレンシングに基づく過去の報告に反して、これらの薬剤は、実際には標的タンパク質を阻害することによって癌細胞を殺傷するわけではなかった。標的が欠乏した細胞に与えた時も作用したのである。そうではなく、これらの薬剤はオフターゲット機構により細胞死を誘導した。例えば、Linらは薬物候補OTS964(PBK酵素を標的としてデザインされた)の真の標的がCDK11と呼ばれる別の酵素であったことを明らかにした。Linらは、未来の薬物候補が目的通りに作用することを確認するためには、前臨床試験でより厳密な遺伝的アプローチを適用することが必要だと主張している。
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Journal
Science Translational Medicine