米国のデータを分析した新たな研究によれば、子供たちがその親たちよりも高い収入を得るようになる確率は急激に低下しており、1940年生まれの子供では90%を超えていたのが、1980年代生まれの子供では50%まで下がったという。さらにこの結果は、より均等な経済的再分配が、経済的流動性(economic mobility)を回復させる上で大きな役割を果たす可能性があることを示している。アメリカン・ドリームという言葉は、勤勉に働くことと機会をつかむことでより良い人生を手にするであろうこと、また低収入の家庭に生まれた者でも十分な努力をすれば「のしあが」れることを約束するものであった。しかし、経済的流動性が大きな注目を集めているにもかかわらず、これについて世代をまたがって調べることは依然として困難である。その大きな理由は、子供たちをその親たちとリンクさせる大規模で質の高いデータセットが米国にはないことである。こうしたデータの欠落を克服するため、Raj Chettyらは、米国の国勢調査と人口動態調査を課税記録と組み合わせるという巧みな手法を用い、インフレ状況やその他の交絡変数で補正を行った。その結果、親よりも高い収入を得ている子供の割合は1940生まれのコホートでは92%であったのが、1984年生まれのコホートでは50%に低下していることが分かった。この落差の理由として一つ考えられるのは、ここ数十年でGDP成長率が鈍化したというものであろう。しかし、著者らが1940年生まれのコホートにおけるGDP成長率によって1980年代生まれのコホートをモデル化しても、絶対的流動性は50%から62%へとわずかに上昇しただけであった。対照的に、著者らが1940年代生まれのコホートにおける経済的分配率によって1980年生まれのコホートをモデル化したところ、絶対的流動性は80%に上昇した。これらのシミュレーションを合わせると、現在の成長における分配率を変えずにGDP成長率を高めることは、絶対的流動性にはわずかな影響しか与えないことが示されている、と著者らは述べている。
関連するPolicy ForumでLawrence F. KatzとAlan B. Kruegerは、Chettyらの結果について取り上げ、経済的再分配の促進を達成するためにとることのできる政策と活動について詳細に論じている。簡単に述べると、検討すべき5つのタイプの政策介入が特徴づけられている:より速やかな生産性向上の促進、人的資本の活性化、低所得家庭の賃金と雇用の改善、課税と所得移転の改正、地域に応じた政策の策定と地理的流動性への取り組み。これらの各ポイントを達成するための方法として数多くの例が挙げられており、その一部を示すと、幼稚園・保育園通園の全員への提供、教員の採用・人材確保・専門トレーニングの改善、公立大学の入学基準の緩和、最低賃金の引き上げ、勤労所得税額控除(EITC)の対象枠の全般的および特になおざりにされている、扶養児童のない低所得労働者への拡大、そして乳幼児をかかえる低所得家庭への住宅給付対象枠の拡大などがある。
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