News Release

高齢者の肺機能の維持に重要な新たな因子を同定

DsbA-Lの多彩な肺機能保護作用が明らかに!

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

Respiratory Function

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LEFT: DsbA-L T/T genotype carriers are considered to have low DsbA-L expression levels which may contribute to their significantly lower respiratory function than G/G and G/T genotype carriers.

RIGHT: There is a positive correlation between the activation of adiponectin, one function of DsbA-L, and respiratory function. Since previous studies showed that differences in DsbA-L gene types are associated with reduced adiponectin activation, this study indicates that differences in the function of DsbA-L genes affect lung function decline.

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Credit: Assoc. Prof. Tsuyoshi Shuto and Assist. Prof. Kentaro Oniki

肺は、常に外環境に晒され、ストレスや組織損傷に対して適応することで恒常性を保っていますが、肺の構造や機能が何らかの理由で破綻すると、生体は呼吸不全に陥ります。一方、肺の機能は老化とともに低下することも知られています。そのため、肺の機能に直接的に影響を与える生体内外の因子を探索することは、高齢化社会を迎える本邦のみならず世界各国で重要な課題の一つとなっています。

DsbA-Lは生体内の多くの組織中に存在し、抗酸化機能を持つ因子として知られています。抗酸化物質は一般に細胞を保護する効果がありますが、DsbA-Lタンパク質が肺の保護に役立つかどうかは不明でした。DsbA-Lは、脂肪組織(体脂肪)で生成されるタンパク質アディポネクチンを活性化し、グルコースレベルと脂肪酸の調節を助け、肺機能を高めることが知られています。熊本大学では、これまでのヒト疫学解析から、DsbA-Lの遺伝子の型の違いによりアディポネクチンの活性化能力が異なることを見出していました。しかし、DsbA-Lの遺伝子の型の違いが、血液中の抗酸化機能に対して影響を与えるのか、また、ヒトにおける肺機能の維持にどのような影響を与えるのかは、これまで明らかになっていませんでした。

これらの疑問を解明するために、まず高齢の人間ドック受診者318名を対象に、DsbA-L遺伝子の型の違い(G/G、G/T、T/T)と、呼吸機能の推移(約6年間)との関係について調べました。その結果、DsbA-Lの発現量が少ないとされるT/T遺伝子型保有者では、呼吸機能が低く推移していました(図1左)。また、DsbA-L遺伝子の型によって血液中の酸化物質(酸化アルブミン)の量も異なっていたことから、本遺伝子が血液中の抗酸化能に関係することも示しました。さらに、DsbA-Lの働きの一つであるアディポネクチン活性化能と呼吸機能の関係を解析したところ、両者の間に正の相関を認め(図1右)、過去の研究で、DsbA-L遺伝子の型の違いがアディポネクチン活性化能低下に関係していたことから、DsbA-L遺伝子の働きの違いが肺機能低下に影響する可能性が考えられました。

次に、肺組織中のDsbA-Lが、肺を直接的に保護する作用を有するか否かについて検証しました。その結果、ヒト肺上皮細胞において、DsbA-Lの発現量を減少させると、肺上皮細胞内の酸化ストレス度が上昇しました。その上、DsbA-L発現量の減少は高齢者や病態時の肺機能に対し悪影響を与えることが知られる粘液の産生を促進することが明らかになりました。このことは、DsbA-Lが、肺の上皮細胞内で、直接的な抗酸化機能を発揮することで、肺保護する作用を有することを意味しています。(図2)

以上のヒトおよび細胞を用いた検討から、DsbA-Lが、血液、脂肪組織、肺などの多くの臓器に作用する肺機能の重要因子であることを明らかにしました。今後、DsbA-Lの活性化や遺伝子の型の違いに注目した研究を実施することで、健康増進や肺疾患治療への応用が期待されます。特に、DsbA-LのT/T型保有者は、日本人で比較的多いため、DsbA-Lを活性化する薬剤は、T/T型保有者においてより高い効果を発揮する可能性があります。

研究を実施した首藤准教授は次のようにコメントしています。

「私たちの研究グループは、最近、DsbA-Lを活性化する働きを有するものとして、インドネシア原産の樹木「メリンジョ」種子抽出物を同定したところで、今後、有用天然物を用いた研究の推進も期待されます。さらに、本研究は、今後、遺伝子の型の違いに応じて治療薬を選択するプレシジョン・メディシンの推進に貢献する可能性もある、先進的な研究成果です。」

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本研究成果は、科学ジャーナル「Scientific Reports」に2020年4月6日に掲載されました。

[Source]

Oniki, K., Nohara, H., Nakashima, R., Obata, Y., Muto, N., Sakamoto, Y., ... Saruwatari, J. (2020). The DsbA-L gene is associated with respiratory function of the elderly via its adiponectin multimeric or antioxidant properties. Scientific Reports. doi:10.1038/s41598-020-62872-5


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