News Release

物体の透明感は人間の立体形状知覚を弱める

透明なものは潰れて見える

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

左から、拡散反射成分、屈折成分、鏡面反射成分の表面材質を持つ球体。

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<概要>

豊橋技術科学大学 情報・知能工学専攻博士後期課程2年 大原正和(博士課程教育リーディングプログラム学生)、エレクトロニクス先端融合研究所准教授 鯉田孝和、University of New South Wales (オーストラリア)准教授 Juno Kimの研究チームは、物体の厚さを目で見て推定する際に、ガラスのような透明な光学特性をもつ物体は厚みが薄く知覚されることを発見しました。過去の研究から、光沢をもつ金属のような物体は厚みが厚く知覚されることが知られており、今回明らかになった透明特性は逆の効果を持つと言えます。厚み推定に寄与する画像の手掛かりを分析した結果、局所輝度コントラストの広域分散という画像特徴をもとに人間が厚み知覚を行っている可能性が示唆されました。この計算モデルを用いることで、人がどのような画像に対して立体形状を見誤りやすいのかが予測できることになり、歩行アシストや自動運転に役に立つと考えられます。

<詳細>

物体表面の質感は、人の感性に訴えかけることからも商品開発等において極めて重要です。質感は見た目だけの問題ではありません。例えば地面が滑りやすいかといった状態認知は光沢感や材質の知覚と関係しますが、この推定を間違えると歩行時や自動車の運転時に事故が起きる恐れがあります。また、光沢や透明感を見誤るときは、同時にしばしば地面の凹凸を見誤ります。このような重要性からか、わたしたちは対象をちらりと見ただけで、物体表面の光学特性の質感や立体形状を認識することができます。それには複雑な画像処理が必要であるのにもかかわらずです。このように質感の知覚が目と脳のどのような仕組みで実現されているのか多くの関心が寄せられています。

人間の脳はモノを見たときに、そのモノに当たる照明やモノの立体形状、表面の光学特性を分解してそれぞれ理解しようと試みます。確かに画像は、物理的にこれらの3要素が精密に組み合わされることで作られます。一方で、これらの3要素を認知的に分解することは基本的に困難な課題であり、正しい知覚を得られるとは限らないことが多数報告されています。例えば物体表面に光沢が付与されると、光沢のないマットな表面と比較して、物体の凹凸が膨らんで見えることが報告されています(Mooney & Anderson (2014). Current Biology)。

光沢は物体表面の反射に関わる光学現象です。一方で、物体表面の光学現象には、透過屈折の特性もあります。透明性は基本的な特性の一つであるにもかかわらず、これまで透明特性とモノの立体形状知覚に関する調査は行われてきませんでした。そこで、本研究グループは従来の拡散反射や光沢と比較して透明特性は立体形状知覚にどのように影響を与えるか調査しました。

実験参加者には、ディスプレイに表示されたコンピュータ・グラフィック(CG)により生成された球体物体(図1)を観察し、その奥行き方向の厚みを推定してもらいました。物体には厚みや表面材質が異なるものを多数用意して比較しました。その結果、表面材質に透明特性のみを持たせた物体は、他の表面材質を持つ同じ形状の物体よりも潰れて見えていたことが明らかになりました(図2)。この効果は、物体の形状を凸凹にしても、仮想照明環境を変えても、大きさを変えたり、左右方向の動きをつけても、片目で観察しても、一貫して生じていました。以上の結果は、透明特性も拡散反射や光沢反射と同様に人間の立体形状知覚に影響を与えていることを示唆します。

次に、物体画像に含まれるどのような手掛かりが厚み知覚に寄与していたのかを画像分析を行いました。厚み知覚を最も正しく推定したのは、画像の局所コントラストの広域分散という特徴量でした。局所コントラストとは、画像のごく一部領域を切り抜き、その範囲内に含まれるピクセルの二乗平均平方根(RMS)コントラストのことで、網膜や脳の初期視覚領域でのニューロン活動に相当します。次に広域分散とは、上記のRMSコントラストを視野の広い範囲内で集計し、分散を計算したものです。以上の結果で得られる数値は、画像でいうところ、光沢物体の縁付近で細かなコントラストが急激に変化する場所が存在することや、拡散反射や透明特性では細かなコントラスト変化の代わりに、大域の輝度変調があることに対応し、厚み形状推定として妥当なものです。

<今後の展望>

研究チームは、透明特性が物体の立体形状を過小評価させることを発見しました。しかし、そのような見誤りが単なるエラーなのか、何か合理的な仕組みが背景にあり、たまたま錯視として現象が生じただけなのかは不明です。今後の研究で、見誤りの原因を詳細に調査する必要があります。

また、厚み知覚を予測する計算モデルは、人の視覚の仕組みを理解するのに役立つだけでなく、どのような状況で人が形状や質感を見誤るのかを予測することにもつながります。歩行時やクルマの運転時に路面の凍結状態や凹凸を誤ることは事故につながります。計算モデルによって光沢や透明感、立体の凹凸を見誤りやすい状況が生じたときに、歩行アシスト装置やスマートグラス、半自動運転装置などがあらかじめ注意を促すなどの応用ができれば、事故を未然に防ぐことが期待できます。

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