東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科寄附講座ナノメディスン(DNP)講座の岩崎剣吾講師、森田育男理事の研究グループは、同大学生体材料工学研究所物質医工学分野、ならびに大日本印刷株式会社との共同研究で、光リソグラフィー技術をもとに、ガラス基板上の細胞を無細胞化した羊膜上に転写したのち、さらにその細胞上に異なる種類の細胞を積層して培養し、マウス骨欠損モデルにおける欠損部に移植することにより、組織を迅速に再生する方法の開発に成功しました。本方法を用いることにより、これまでの単一細胞の移植から多種類の細胞の局所移植が可能となり、新しい概念による再生医療が可能となりました。この研究は文部科学省科学研究費補助金の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Scientific Reportsに、2016年9月14日午前10時(イギリス時間)にオンライン版で発表されます。
【研究の背景】
病気の進行や事故で失われた体の組織を再生させる事は非常に難しく、最近では体の外で培養した細胞を移植して組織を再生させる治療法の開発が期待されています。しかし生体の組織は複雑な3次元的な構造を持っており、失われた組織の構造に似せた移植材料を作る事は困難でした。研究グループは、マイクロメートル単位の微細な模様の印刷を可能にするにしている光リソグラフィー技術に注目し、この技術を細胞移植材料の作成に応用しました。さらに、多くの組織は、異なった細 胞が多層になっていることより、この状態を体外で作り出して、移植することが必要でした。
【研究成果の概要】
多くの生体組織は複数の種類の細胞が多層になっています。例えば、血管は外側から内側に向け線維芽細胞層、平滑筋細胞層、内皮細胞層で構成されています。この多層になることで、各々の細胞層が相互に活性物質をやり取りして、血圧調節など組織の恒常性を維持しています。また、組織は、複雑な構造を有していることから、移植時には、その複雑さに対応する必要があります。本研究グループは、光リソグラフィー技術を用いて、細胞を体内に存在するままのパターンで培養し、生体内に移植する方法を世界で初めて開発していましたが、本研究においては、これまで単一の細胞のみで可能であった技術を改良し、複数の異なる細胞を積層する方法を開発しました。すなわち、印刷技術によるインクの多色刷りを細胞に応用しました。このように細胞を多層に積層した生体材料(無細胞化羊膜)は、折り曲げたり、引っ張ったり、切り抜いたり、さらには形状を変化させることも可能で、生体材料に印刷された細胞は安定して保たれます。 この細胞を多層に積層した生体材料の、組織再生への寄与能力を調べるために、増殖能と分化能を有する間葉系幹細胞と骨を作るもとになる骨芽細胞を多層化し、マウスの骨欠損部に移植しました。骨を取り除いた穴の上へ幹細胞と骨を作る細胞の2つを印刷した材料を移植したところ、骨の再生が増強される結果が観察されました。
【研究成果の意義】
今回開発した本方法によって、複数の細胞種が積層された生体に近い構造を持った細胞移植材料が作成できます。また、この方法で作った材料は、移植手術の際に起こる材料の変形などに耐え、さらに移植材料を引っ張ったり、折りたたんだり、トリミングしたりすることも可能であることから、細胞移植治療を簡単に、確実に行う事を可能にすると思われます。今後、血管内皮細胞+平滑筋細胞で血管再建や、歯根膜細胞+骨芽細胞で歯周病治療など、多くの再生医療への応用が期待されます。
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Journal
Scientific Reports