ヒトに最も近い2つの近縁種であるデニソワ人とネアンデルタール人のY染色体を包括的に解析した初めての研究の1つで、これまでの研究から示唆された以下のことが報告された:旧人類と現代人の遺伝子流動イベントにより、遺伝子移入したホモ・サピエンスのY染色体による旧人類ネアンデルタール人のY染色体の最終的な置換が生じたが、デニソワ人のY染色体とホモ・サピエンスのY染色体の置換は生じなかった。「(この)新しい研究まで … 考古学者には2人のネアンデルタール人からの限定されたY染色体データしかなく、初期交雑時の Y染色体交換に関する情報はなかった」と、関連するPerspectiveでMikkel Heide Schierupは述べている。初期の現代人と旧人類の複数回の交雑イベントを含む絡み合った進化史と個体群史を示唆する、ネアンデルタール人、デニソワ人、そしてホモ・サピエンスを対象とした古代DNA研究が増えつつある。しかし、古代の核とミトコンドリアのDNA配列(mtDNA)から、説明が困難な、3群間の系統発生上の相違が明らかになっている。例えば、常染色体ゲノムから、 ネアンデルタール人とデニソワ人が 姉妹群であり、550,000年以上前に現代人から分岐したことが示されている。しかし、最も初期のものを除いて、ネアンデルタール人のmtDNAサンプルは、デニソワ人よりも現代人にはるかに近い。これらの研究は、ネアンデルタール人は本来はデニソワ人に似たmtDNAを持っていたが、その後、初期現代人との初期交雑により、おそらく350,000~150,000年前に完全に置換されたことを示唆している。 父性遺伝のY染色体のゲノムデータは不可解な遺伝子流動の解明に役立つと考えられるが、実際のところ、これまでに研究されたネアンデルタール人とデニソワ人の男性には、良好に保存されたY染色体DNAが含まれていなかった。このデータのギャップに対処するため、Martin Petrらは、ターゲットキャプチャーを利用したDNAシーケンシング法を用いて、3人のネアンデルタール人男性と2人のデニソワ人男性のあまり良好に保存されていない残存物からY染色体配列を濃縮し抽出した。Petrらは、母性遺伝したmtDNAに似て、ヒトとネアンデルタール人のY染色体の相互関連性が、デニソワ人との関連性よりも大きかったことを明らかにした。このことは、初期人類とネアンデルタール人の同系交配およびその後の選択により、後期ネアンデルタール人では古代のデニソワ人に似た遺伝物質が完全に置換されるに至ったという説を支持している。
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