ボツリヌス毒素の化学的性質を利用して、2つの研究チームがこの化合物から、承認された治療薬がほとんどない致死的疾患となる可能性のあるボツリヌス中毒症を治療するために、治療抗体を送達することのできる毒性のない化合物を開発した。マウス、モルモットおよび非ヒト霊長類を用いて行われた研究では、この毒素誘導体により、ボツリヌス中毒症の確定症例を速やかに治療するための、またニューロン内の到達困難な分子を標的とするためのプラットフォームを将来提供できる可能性があることが示唆されている。ボツリヌス中毒症は、細菌が産生するボツリヌス神経毒素(BoNT)と呼ばれる毒素により発症するが、この毒素はこれまで知られているうちでヒトに対して最も強力なものである。BoNTの作用は、運動の調整を行うニューロンの中に侵入して障害を起こすというもので、その結果麻痺が生じて集中治療を要し、数ヵ月にわたり持続することがある。麻痺を迅速に回復させることのできる治療薬が早急に必要とされているが、BoNTが一度ニューロン内に入るとこの毒素を中和させることは難しいため、既存の症例に対する治療薬の開発は困難である。第一の研究でShin-Ichiro Miyashitaらは、BoNT/XおよびBoNT/Aと呼ばれる2種類のBoNTの部位を融合することで、毒性がなく、薬物送達のプラットフォームとして働くキメラ分子を作製した。具体的に述べると、著者らはBoNT/Aのニューロンを標的とするドメインと、BoNT/Xの別のドメインを組み合わせることで、ニューロン内に治療薬分子を送達できるようにした。Miyashitaらはこのアプローチにより、マウスにおいてニューロン内に抗毒物抗体が速やかに送達されて、神経毒素BoNT/AおよびBoNT/Bが中和され、数時間以内に麻痺が回復することを見出した。同様のアプローチを用いて、Patrick McNuttらはニューロン内のBoNT/Aを安全に中和する、毒性のないBoNT誘導体を作製した。この誘導体を投与したところ、致死量のBoNT/Aに曝露されたマウス、モルモットおよび非ヒト霊長類で麻痺が軽減し、生存が改善した。「このプラットフォームは、多様な前シナプス疾患に適用できるような、プレシジョンメディシンのためのトランスレーショナル・アプローチを提供するものである」と、McNuttらは述べている。
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Journal
Science Translational Medicine