スチール製カミソリはなぜそれよりもはるかに柔らかい物を切ると刃先の切れ味が悪くなるのか。この現象を引き起こすマイクロ機械的状態が、一連の「現実的なシェービング」実験を通して明らかになった。この発見によって、現在の刃物技術を市販の使い捨てカミソリの刃持ちを良くし、そうすることで環境負荷を低減することを目指して向上する方法が示唆された。日常的に次のようなことが見られる。最高によく切れるスチール製カミソリは、短時間のシェービングを数回しただけで切れ味が鈍る。十分に研がれた料理人の包丁の焼刃は、トマトやジャガイモを切ると実際に使い物にならなくなったりする。しかし、毛のような非常に柔らかな物を切ると ―― スチール製の刃先の方が50倍以上も硬いにもかかわらず ―― 刃の切れ味が悪くなるプロセスはほぼ分かっていない。鋭い刃先の劣化は、刃先が丸くなる・スチール製の刃のもろく硬いコーティングにひびが入るなどの基本的な摩耗メカニズムが原因だと一般的には考えられてきたが、そういった解釈では、スチールとそれで切る素材の相互作用の複雑な基本構造や相互変形の動力学が考慮されていない。Gianluca Roscioliらは、マルテンサイト系ステンレススチール製の刃 ―― 標準的な市販の使い捨て安全カミソリ替え刃 ―― と人間の毛を使って一連の切断実験を行い、その場で電子顕微鏡を用いて現実的なシェービング状況での刃の摩耗の進み方を観察した。毛の曲がり具合による切断角の違い、刃先の微細構造の変化、これら変化と切っている毛の相対的位置関係、これら全てが相まって刃先の劣化を引き起こすことをRoscioliらは発見した。この発見は、切刃の設計は微細構造のさらなる均質化で向上できることを示唆している。そしてその均質化は、例えばナノ構造合金の使用で実現できると考えられる。
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