熊本大学発生医学研究所の石黒啓一郎准教授の研究グループは、C19ORF57と呼ばれる遺伝子が細胞の減数分裂に重要な役割を果たすことを発見しました。この遺伝子は男性による不妊の原因に関連していると考えられ、生殖医療の大きな伸展につながる可能性があります。
卵巣や精巣では「減数分裂」と呼ばれる特殊な細胞分裂が行われて卵子や精子が作り出されます。この課程で、減数分裂組換えと呼ばれるDNA配列の交換を通じて母方DNAと父方DNAの間で遺伝情報が部分的に交換されます。この減数分裂組換えは、同じ両親から生まれた兄弟姉妹でも微妙に異なる特徴を持つように遺伝的多様性を生み出す仕組みとして働きます。
通常、減数分裂組換えは、生殖細胞内の数百カ所のDNA切断によって開始されます。DNA切断ということはDNAが損傷を負う反応でもあります。DNA切断は減数分裂組換えのきっかけとなる正常かつ必要なプロセスですが、即座に修復される必要があります。本研究において石黒准教授と竹本一政研究員は、減数分裂組換え中のDNA損傷修復に重要な役割を果たす新しい遺伝子を発見しました。
同研究グループは、先行研究において減数分裂のスイッチを入れる遺伝子Meiosinを発見した際に、それによって数百種類によぶ精子・卵子の形成に関わる遺伝子が一斉に働くことを発見しました。これらの遺伝子には、その機能がまだ十分に解明されていないものもあります。そのうちの1つである正体不明の遺伝子「C19ORF57」について、より詳細な解析を行いました。
減数分裂におけるC19ORF57の役割を解明するため、質量分析法を駆使して解析した結果、DNAの損傷修復に働き、乳がん抑制遺伝子としても機能することが知られているBRCA2に結合することを発見しました。つまり、C19ORF57とBRCA2が生殖細胞内で一緒に機能することが示唆されました。
そこで顕微鏡画像を解析したところ、減数組換え反応が起きている生殖細胞内に生じたDNA損傷を修復するため、C19ORF57はゲノム上の損傷箇所にBRCA2を呼び寄せる役割を果たしていることを発見しました。
そこで、ゲノム編集によってオスマウスのC19orf57遺伝子の機能を阻害したところ、減数分裂組換え反応がうまく起こらなくなるため、精子形成が著しく低下し不妊となることが判明しました。
ヒトに見られる不妊症には原因が不明とされる症例が多いことが知られています。今回の発見は、特に無精子症や精子形成不全を示す不妊症の病態解明に資することが期待されます。また、今回の成果はマウスを用いて検証されたものですが、C19ORF57遺伝子はヒトにも存在することがわかりました。本研究成果により、減数分裂に着目した生殖医療の発展が期待されます。
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A 5-minute video introducing this research can be found on YouTube.
[Source]
Takemoto, K., Tani, N., Takada-Horisawa, Y., Fujimura, S., Tanno, N., Yamane, M., � Ishiguro, K. (2020). Meiosis-Specific C19orf57/4930432K21Rik/BRME1 Modulates Localization of RAD51 and DMC1 to DSBs in Mouse Meiotic Recombination. Cell Reports, 31(8), 107686. doi:10.1016/j.celrep.2020.107686
Journal
Cell Reports