急性腎障害は突発的に起こる腎不全で、数時間から数日間続きます。この間、体液の適切なバランスを維持する腎臓の能力が急速に損なわれ、血液中に老廃物、いわゆる尿毒素が蓄積されます。腎臓への血流低下、腎臓の直接的な損傷、尿路の閉塞など原因はいくつかありますが、急性腎障害の死亡率は比較的高く、しばしば呼吸器系の合併症を引き起こします。ところが、肺の損傷と急性腎障害との関連性はこれまで完全には明らかにされていませんでした。
急性肺障害と急性腎障害の関連性を明らかにするため、熊本大学の研究チームは両側腎摘出(BNx)誘導急性腎障害ラットモデルを開発しました。研究チームは、先行研究に基づき、通常は尿の中に排泄されるが腎臓病患者の循環血液中に残存して腎疾患に影響する物質「インドキシル硫酸(IS)」に着目しました。実験は、擬手術対照群、両側腎摘出群(BNx)、両側腎摘出を行った上、インドキシル硫酸等の腸管由来の尿毒素を減少させる効果のある吸着活性炭剤「AST-120」を経口投与した群(BNx+AST-120)の3群に分けて行われました。
研究チームは、1.肺細胞膜を横切って水分を輸送する機能を持つタンパク質であるアクアポリン5(AQP-5)にインドキシル硫酸が影響するのか、また、2.腎障害症状のある動物群で、インドキシル硫酸が急性肺障害の発症に関与しているのかどうかの2点について調べました。実験の結果、術後48時間後の血清中のインドキシル硫酸値および臓器(肺、肝臓、心臓、腸)に蓄積したインドキシル硫酸値は、BNx群のほうが擬手術対照群およびBNx+AST-120群よりも有意に高いことが判りました。また、肺組織を病理学的に分析したところ、BNx+AST-120群は間質組織の肥厚(厚み)がBNx群と比較して有意に減少していることも明らかになりました。さらに、ウエスタンブロットおよび免疫組織学的解析により、BNx+AST-120群が擬手術対照群と同程度のアクアポリン5発現量を維持することが判明しました。
本研究を主導した齋藤秀之教授は次のように説明しています。
「我々は急性腎障害が肺組織にインドキシル硫酸の蓄積をもたらし、肺腎連関によって急性肺傷害を引き起こす可能性があることを推察しています。つまり、インドキシル硫酸の蓄積が、肺における水分の運搬経路の機能の調節を狂わせ、肺膜組織の肥厚や肺の損傷を引き起こしていると考えられます。一方、腸管において作用する経口吸着炭剤「AST-120」による治療が、インドキシル硫酸の産生や肺への蓄積を二次的に減少させ、肺組織を正常な厚さに戻す効果があることも今回の研究でわかりました。」
今回の実験では各3タイプの対照群につき3匹のラットを使用しており、実験匹数が少ない点が課題となっています。しかしながら、インドキシル硫酸によるアクアポリン5の発現調節異常に関与するメカニズムを明らかにする研究を既に計画しており、今回の研究結果をさらに裏付ける知見を得る可能性があります。
本研究成果は、急性腎障害が急性肺障害の発症において果たす役割、すなわち、肺腎連関の分子機序を踏まえた新たな治療アプローチへの開発に繋がることが期待されます。本研究の論文はInternational Journal of Molecular Sciencesのウェブサイトに掲載されています。
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[Citation]
N. Yabuuchi, M. Sagata, C. Saigo, G. Yoneda, Y. Yamamoto, Y. Nomura, K. Nishi, R. Fujino, H. Jono, and H. Saito, “Indoxyl sulfate as a mediator involved in dysregulation of pulmonary aquaporin-5 in acute lung injury caused by acute kidney injury,” International Journal of Molecular Sciences, vol. 18, p. 11, Dec. 2016. DOI: 10.3390/ijms18010011
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International Journal of Molecular Sciences