河田照雄 京都大学大学院農学研究科教授、後藤剛 同准教授らの研究グループは、魚に含まれる油(魚油:主成分はEPA、DHA)の摂取が脂肪燃焼細胞(脂肪を分解し熱にする細胞)である「褐色脂肪細胞」(以下褐色脂肪)の増加を促進し、体脂肪の減少や体温上昇をもたらすことを動物実験により証明しました。
本研究成果は、2015年12月17日に英国科学誌「Scientific Reports」誌(オンライン版)で公開されました。
研究者からのコメント
体に良い食品の摂取は、全ての人々にとって大変重要です。食品に含まれる油脂は、種類によって健康効果やそれらの作用メカニズムが異なることが明らかになりつつあります。今回の魚油の健康機能性とそのメカニズムの解明は、油脂の健康特性の新たな一面を明らかにしました。今後は、健康な食生活に役立つ油脂やその他の食品成分について、特にメタボリックシンドロームの改善が深く関わる健康寿命の延伸への機能に着目して研究を発展させていく予定です。
本研究のポイント
- 魚油の摂取が「体脂肪蓄積の減少」や「体温の上昇」を促進することを動物実験で証明
- これらの作用が「感覚受容チャネル?交感神経?褐色脂肪」を介することを解明
- 魚油を含む食事が「肥満や生活習慣病の改善」につながる科学的根拠を得た
概要
ヒトには、対象的な役割を担う2種類の脂肪組織、「白色脂肪組織 (White Adipose Tissue, WAT)」と「褐色脂肪組織 (Brown Adipose Tissue, BAT)」が存在します。WATは脂肪を貯めこむのに対して、BATは脂肪を分解し熱を産生することで体温を保持するとともに、全身のエネルギー調節に関わります。近年、褐色脂肪が成人にも存在し、その減少が中年太りやメタボリックシンドローム、生活習慣病の原因になることが明らかとなってきました。褐色脂肪の減少を防ぐことができれば、肥満やそれに関連する病気を防ぐことができると考えられています。
一方、魚油は世界的な疫学研究により過体重の抑制に効果があることが報告されていましたが、詳細な作用機構は明らかになっていませんでした。本研究は、褐色脂肪の減少防止や増強をもたらす食品成分として魚油を見出すとともに、その作用は感覚受容チャネルTRPV1と交感神経系を介するものであることを解明しました。
###
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/srep18013
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/202758
Minji Kim, Tsuyoshi Goto, Rina Yu, Kunitoshi Uchida, Makoto Tominaga, Yuriko Kano, Nobuyuki Takahashi & Teruo Kawada
"Fish oil intake induces UCP1 upregulation in brown and white adipose tissue via the sympathetic nervous system"Scientific Reports 5, Article number: 18013, Published online: 17 December 2015
Journal
Scientific Reports