研究者らは、クールアブラコウモリに目隠しをし、新しいGPS技術を用いてその動きを追跡することによって、その小さな生物が反響定位だけを使って数キロメートルをナビゲートできることを示している。この研究結果により、コウモリが周辺状況についての詳細な音響メンタルマップを作成し、それを使用できることが強調された。反響定位を行うコウモリは、音だけを利用して、障害物を素早く避けながら小さな獲物を捕える能力を持つことが知られている。しかし、反響定位は距離が短いうえに指向性も高いため、数十メートル程度内にある大きな物体は検出できるが、視覚などの感覚と比較してそのナビゲーションの有効性は限られる。加えて、どの程度コウモリが反響定位を使って周辺状況を3次元で把握したり、ナビゲーションのためのランドマークとして周囲からの反響音を使ったりできるのかはわかっていない。これらの疑問の検討は、非常に敏捷なこの夜行性小動物の追跡がかなり困難な作業であることで、より難しくなっている。したがって、コウモリが反響定位だけを頼りに長距離をナビゲートできるかどうかはわかっていない。Aya Goldshteinらは、反響定位を行う体重わずか6グラムの小型コウモリ、クールアブラコウモリ(Pipistrellus kuhlii)の感覚様相とナビゲーション戦略を調査した。Goldshteinらはイスラエル北部での野外実験で、野生コウモリを捕獲し、そのねぐらから約3キロ離れた生息域内のよく知らない2ヵ所のうちの1ヵ所に移動させた。コウモリの反響定位は損なわないまま、目隠しで見えなくするなどしてその感覚入力を奪い、新しい小型逆GPS追跡システムを用いてほぼリアルタイムで追跡することによって、Goldshteinらはコウモリがねぐらまでの帰り道をどのようにナビゲートするのかを調査した。その結果、コウモリは反響定位のみを使って数キロをナビゲートできること、また、ナビゲーションの精度を上げるために、使用可能であれば、視覚を用いることが示された。注目すべきことに、目隠しされたコウモリもされなかったコウモリも自分のねぐらを直ちに感知することはできなかった。コウモリは最初、おそらく周辺状況から音響情報を収集するために、蛇行飛行し、その後、目的地に直接向かう飛行に移行した。明確で詳細な音響ランドマークに導かれるナビゲーションであることが観察され、コウモリが自分の位置確認のために生息地域の音響メンタルマップを使用していることが示された。また、コウモリが磁気感知や嗅覚を使ってナビゲーションを補助しているというエビデンスは得られなかった。
Journal
Science
Article Title
Acoustic cognitive map-based navigation in echolocating bats
Article Publication Date
1-Nov-2024