研究者の報告によると、先般の「サケット vs 米国環境保護庁(EPA)」訴訟における最高裁判決に従って新たに解釈すれば、米国にある最大9000万エーカー(約36万平方キロメートル)の非潮汐湿地が、連邦政府の保護対象から除外される可能性があるという。これは米国本土に存在する湿地のほぼすべてにあたる。この研究結果は、規制対象の変更によって影響が及びうる範囲を明らかにするとともに、判決がもたらした懸念を浮き彫りにしている。1972年に制定された水質浄化法(CWA)は、米国における水域と湿地の水質を修復および保護することを目的としている。連邦政府によって保護されている水域は「合衆国の水域」(WOTUS)と呼ばれており、これには航行可能な水域とそれにつながる河川や湿地が含まれている。2023年5月、米国最高裁判所が「サケット vs 米国環境保護庁(EPA)」訴訟に下した判決により、CWAでWOTUSとみなす水域が再定義された結果、連邦政府の保護対象は、より大きな水域と「連続的な表面接続」をもち、河川や湖と「区別できない」湿地のみに限定された。Adam Goldによると、この非常に狭い解釈では、かつて保護されていた多くの湿地が、生態学的重要性が広く理解されているにもかかわらず除外されてしまう。さらに裁判所の判決では、この判決によって影響を受ける湿地や一時河川の推定数も考慮していないし、保護を失うことによる環境的または経済的な影響も考慮していないという。Goldは湿地の「湿潤度」を測る質的尺度として洪水頻度を用いて、さまざまなサケット判決の解釈が及ぼしうる影響を評価し、米国でどれほど多くの非潮汐湿地が保護を失うかを推定した。この研究結果によると、サケット判決によって連邦政府の保護が失われると推定される米国本土の非潮汐湿地の面積は、1730万エーカー(約7万平方キロメートル、非潮汐湿地の19%)から、ほぼすべての湿地にあたる9000万エーカー(約36万平方キロメートル)に及ぶという。推定値の下限は、「乾燥度」を考慮せずに、孤立した湿地に適用したものである。一方、「乾燥度が高い」湿地を除外するようなより限定的な解釈では、保護対象から除外される湿地の面積がはるかに大きくなると予測される。例えば、湿地の保護を続けるためには、少なくとも季節的にまたは半永久的に浸水している必要があるとする場合、5500万エーカー(約22万平方キロメートル、61%)から8190万エーカー(約33万平方キロメートル、91%)の湿地が連邦政府の保護を失う可能性があり、永久的に浸水している必要があるとする場合は、ほぼすべての湿地が除外される。またGoldの分析では、州規制による保護の有無と公有地か否かも考慮したうえで、ホットスポットも明らかにしている。特に多かったのは、湿地保護が最も脆弱である南東部とグレートプレーンズであった。Policy ForumではDave Owenが、この研究結果と、同じく先般の規制変更に注目したいくつかの研究について詳細に論じている。
Journal
Science
Article Title
How wet must a wetland be to have federal protections in post-Sackett US?
Article Publication Date
27-Sep-2024