現在世界各地で使われている手話は関係性に不明なところが多くその歴史を把握しにくいが、計算解析がそれらに光を当て、地政学的な力および関連する手話コミュニティによって形成された2つの主要な手話語族を明らかにした。この研究結果は、音声言語の理解に役立っている計算手法を手話の研究にも拡張して適用できることを示しており、その点で社会の主流から取り残されている他のさまざまな言語とコミュニティに対する我々の理解における格差への取り組みに見込みを与えるものである。言語は人間の存在を決定づける特徴であり、常に変化し進化している。全世界にわたり時代を超えて、言語の変化はそれを共有するコミュニティの歴史を反映している場合が多い。計算系統発生学における近年の進歩を利用して、さまざまな音声言語集団の語彙および文法的性質について別の視点からの進化的関係が発見されており、この発見がなければ不明なままであった歴史が明らかにされてきた。音声言語と同様に、手話も世界各地で自然発生し使われている。しかし主流から取り残され研究不足な言語によくあるように、手話がそれを使うコミュニティでどう進化してきたかについては、音声言語に比べるとまるで理解されていない。この隔たりにおける主要な課題のひとつは動的な写像性、つまり流れるような視覚-身振りの動きに基づいて手話が構築されていることだ。そのため、言語に関する記録文書は大抵の場合不十分で、静止画や説明的記述に限られている。
この隔たりに取り組むために、Natasha Abnerらは計算系統発生学の手法を適用し、世界各地で使われている19の現代手話の語族構造を研究した。Abnerらは、各手話の中心的語彙について動画辞典の入力データを集め、コード化した手話形式のデータベースを開発した。手話はそれぞれ、各手話形式の基本音声パラメーターに基づいて個別にコード化された。このデータセットの系統発生解析により、ヨーロッパ系とアジア系という2つの独立した手話語族、さらに各語族について分節化した系統樹も明らかになった。ヨーロッパの手話とアジアの手話の間に長期的な接触を示す証拠は発見されなかった。ただし注目すべきことに、西ヨーロッパの手話と英国およびニュージーランドの手話との間には、これまでの推定よりも密接な関係があることが実証された。さらにAbnerらは、西ヨーロッパの手話の系統樹には、フランスの手話による広範な影響と18世紀にろう教育学校を設立した国々の地政学的歴史が反映されていることを示している。アジアの手話では2つの異なる亜族も特定された。
Journal
Science
Article Title
Computational phylogenetics reveal histories of sign languages
Article Publication Date
2-Feb-2024