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「 特発性炎症性筋疾患においてPD-1/PD-L1は病態形成に寄与する 」 ― PD-1+CD8+T細胞による攻撃と筋線維のPD-L1を介した反撃 ―

Peer-Reviewed Publication

Tokyo Medical and Dental University

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PD-1+CD8+ T cells were activated rather than exhausted. PD-1+CD8+ T cells infiltrated muscle tissues. Affected muscles reacted to IFNγ, which could be produced from effector T cells, as a danger signal and then expressed PD-L1. Muscles countered PD-1+CD8+ T cell attacks through the enhancement of PD-L1 expression.

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Credit: Department of Rheumatology, TMDU

 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 膠原病・リウマチ内科学分野の保田晋助教授、佐々木広和助教らの研究グループは、特発性炎症性筋疾患において、PD-1+CD8+T細胞は機能的に活性化し、筋傷害に関与するサブセットであり、それに対して筋線維はPD-L1を使って対抗していることを明らかにしました。この研究は文部科学省科学研究費補助金の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Journal of Autoimmunityに、2023年11月4日にオンライン版で発表されました。

 

【研究の背景】

 特発性炎症性筋疾患(IIM)は原因不明の自己免疫疾患で、骨格筋が主に傷害されます。自分自身に対する異常な免疫反応を抑えるため、副腎皮質ステロイドを中心とした免疫抑制薬が用いられますが、様々な細胞に作用するため、多彩な副作用が知られています。また、現在使用可能な治療法で良くならない患者さんも存在します。IIMの病態に関与する細胞を見つけることで、より効果的な治療の開発が期待できます。

 PD-1は主に活性化したT細胞※1の細胞表面上に発現します。PD-1を発現したT細胞(PD-1+T細胞)はPD-1のリガンド※2であるPD-L1と結合すると、T細胞内に活性化を抑制する信号が伝わり、攻撃する機能を失っていきます。PD-1とPD-L1が結合しないようにして、PD-1+T細胞を持続的に活性化させる免疫チェックポイント阻害療法は癌の治療で有効ですが、治療例の一部で筋炎を発症することがあります。また、IIM患者さんの筋組織ではPD-1+細胞の浸潤と筋線維のPD-L1発現が見られます。こうした現象はあたかもPD-1+細胞が筋肉を攻撃し、筋線維がPD-L1という武器で対抗しているように見えます。

 一方で、癌の微小環境※3や慢性ウイルス感染といった慢性的に抗原(敵)が存在し、T細胞が刺激されている状況では、PD-1+CD8+T細胞は疲弊し、攻撃する力を失ってしまいます。IIMでは、T細胞が自己の筋を誤って敵と認識して攻撃していると考えられます。この場合、自己の抗原(筋)により慢性的に刺激されている状況であると考えられ、PD-1+CD8+T細胞は疲弊し、攻撃する機能を喪失していてもおかしくありません。つまり、IIMにおいて、PD-1+CD8+細胞が筋傷害に寄与するサブセットなのか、あるいは疲弊しているのかは不明と言えます。

 

【研究成果の概要】

 癌の微小環境や慢性ウイルス感染といった慢性的な抗原刺激下で、CD8+T細胞が疲弊する過程において、TOXという分子が重要な役割を担っています。PD-1+CD8+T細胞がTOXを高発現すると、細胞溶解分子(パーフォリンやグランザイムBなど)の発現が低下し、攻撃能が低下することが報告されています。IIM患者さんの末梢血でPD-1、TOX、細胞溶解分子の発現を解析したところ、活動期には非活動期と比較して、PD-1+CD8+T細胞はパーフォリンやグランザイムBといった細胞溶解分子を高発現していることがわかりました。一方でPD-1を発現していないCD8+T細胞では細胞溶解分子の発現率は活動期と非活動期の間に差を認めませんでした。また、活動期のPD-1+CD8+T細胞のごく一部でのみTOXを高発現し、細胞溶解分子の発現率が低下していましたが、大部分のPD-1+CD8+T細胞は活性化した状態を維持していました。これらの結果から、癌の微小環境や慢性ウイルス感染と異なり、IIMにおけるPD-1+CD8+T細胞は慢性的な自己抗原による刺激下でも、疲弊することなく、活性化していると言えます。

 また、マウスの筋炎モデルを用いて、PD-1+CD8+T細胞の病原性も検証しました。マウス筋炎では、PD-1を発現していないCD8+T細胞と比較してPD-1+CD8+T細胞が細胞溶解分子を高発現していました。特に傷害された筋組織において、細胞溶解分子を発現するPD-1+CD8+T細胞の集積が顕著でした。PD-1+T細胞の活性化を抑制するブレーキであるPD-L1を欠損させたPD-L1ノックアウトマウス(PD-L1KO)では、筋力低下が顕著に見られ、筋炎の重症化が見られました。PD-L1ノックアウトマウスの筋組織では、通常の野生型マウスと比較して、細胞溶解分子を高発現するPD-1+CD8+T細胞の増加が見られました。これらの結果から、筋炎において、PD-1+CD8+T細胞は筋傷害に関与する病的なサブセットであることがわかりました。

 一方、攻撃される筋側に目を向けてみると、IIMの筋線維はPD-1+CD8+T細胞の攻撃に対抗すべくPD-L1を発現しているように見えます。CD8+T細胞は細胞溶解分子以外にも様々な攻撃分子を持っていて、そのうちのIFNγは癌やウイルス除去に重要な因子として知られています。筋線維におけるPD-L1の制御メカニズムは十分にわかっていませんでしたが、筋炎においてCD8+T細胞などから産生されるIFNγがCDK5という分子を介して、筋線維のPD-L1発現を制御していることを明らかにしました。また、IFNγによってPD-L1が高発現した筋線維はCD8+T細胞の攻撃を減弱させることも分かりました。つまり、IIMにおいて、筋線維は危険信号としてIFNγに反応し、PD-L1発現を介してPD-1+CD8+T細胞に反撃していると言えます。

【研究成果の意義】

 IIMにおけるPD-1+T細胞を標的にした新規治療法の可能性に関する新たな知見となります。これまでIIMを含む自己免疫疾患におけるT細胞の疲弊メカニズムは十分にわかっていませんでした。この研究により、IIM患者ではPD-1+CD8+T細胞は疲弊せず、むしろ病態形成に関与していることがわかりました。このことは、IIMにおいてT細胞が疲弊を回避するメカニズムが存在することを示唆しています。IIMのみならず、慢性的に自己の抗原により免疫細胞が刺激されていると考えられる多くの自己免疫疾患の病態の理解に重要な知見となると考えられます。

 

【用語解説】

※1 T細胞

免疫系における主要な細胞の一つで、体内の感染症や異常な細胞(癌細胞など)に対する免疫応答を調節し、制御する役割を果たす白血球である。T細胞は感染細胞や癌細胞を特定し、破壊する役割を担うキラーT細胞、免疫応答を調節し、他の免疫細胞に指示を出すヘルパーT細胞、免疫応答を制御し、過剰な免疫反応を抑制する制御性T細胞といったサブセットが知られている。

※2 リガンド

ある細胞膜表面のタンパク質に対して特異的に結合する分子であり、細胞膜タンパクとリガンドが結合すると、細胞内へ信号が送られる。

※3 癌の微小環境

癌細胞を取り囲む癌周囲の環境のこと。癌細胞に加え、T細胞を含む様々な免疫細胞、線維芽細胞、血管により構成される。癌の微小環境内で生じる免疫応答が癌の進展に関与する。


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