News Release

炎のゆらぎを解明する

2つの炎の距離を動かすことでゆらぎは制御できる

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

炎同士を動かすことで炎のゆらぎが止まる「デス・モード」の発現

image: 炎を動かした際の様子(左),状態マップ(右) view more 

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概要

豊橋技術科学大学機械工学系中村祐二教授の研究チームは、2つの炎を互いに近づけたり遠ざけたりすることで火炎のゆらぎを自在に制御できることを見出しました。これまで、ある距離を離した炎同士が干渉することで、同位相・逆位相で炎がゆらぐことは知られていましたが、位相が移り変わる臨界条件で発現するはずの「炎のゆらぎが止まる」状態を安定して発現させることはできませんでした。

研究チームは、「炎のゆらぎが止まる」状態を、炎同士の距離を周期的に近づけたり遠ざけたりすることで安定的に発現させることに成功しました。これにより、炎のゆらぎ状態を自由自在に制御することができ、炎のゆらぎの本質に迫ることができます。

 

詳細

炎のゆらぎとは、普段から容易に観察される馴染み深いものである一方、様々な様相を示す不思議で面白いものでもあります。例えば、一旦ゆらいでいる炎同士が干渉すると安定的なゆらぎモードだけが選択的に発現します。炎の距離に応じて、同じ位相でゆらぐ「同位相モード」、逆の位相でゆらぐ「逆位相モード」が選択的に発現します。また、それらのモードではゆらぎの周波数が異なるといった不思議なことが起きます。このように様々なゆらぐ状態が実現できるのですが、「ゆらいでいる炎を干渉させてゆらぎを止まる」ことを示した例はありません。この状態は、過去に3つの炎をある配列することで実現されることが示されましたが(動かない、という意味で「デス・モード」と名付けられました)、何故それが2つの炎ではできないのかが明確になっておりませんでした。

そこで研究チームは、2つの炎同士の距離をある周期で近づけたり遠ざけたりすることでデス・モードを発現させることを見出しました。

「炎と炎の干渉実験を行うにあたり、徐々に近づけるまたは遠ざけると、途中でゆらぎが一時的に止まります。ところが、その位置に留めておくと、いずれまたゆらぎ始めます。最終的にはゆらぐので、その状態が安定状態であることはわかるのですが、安定状態に落ち着くまでの「遅れ時間」があるということは、その時間スケール内でゆらぎを静止できる状況を作れば、ずっと静止させられる可能性があることを意味します。そこで、炎の距離を周期的に近づけたり遠ざけたりすることでこの予測が正しかったことを証明することができました。また、この理由は流体力学的な特性で説明できることを示しました。今後は理論構築に向けた研究を進めていきます。」と筆頭著者である研究員(当時)のJu Xiaoyu博士は説明します。

 

開発秘話

研究チームのリーダーである中村祐二教授は「もともと炎同士の干渉により炎のゆらぎモードが決まることは知られていました。この現象は燃焼工学ではなく非線形物理学として応用物理の研究者によって説明が試みられていましたが、その説明では流体力学的な考察が含まれておらず、無理があると感じました。そこで本格的にこの研究に取り組み始めたのですが、同位相と逆位相のゆらぎの中間状態で一時的に制止する現象を目のあたりにして、こんなことがあるのか、と衝撃を受けました。これまでの研究では一切触れられていないこの奇抜な遷移状態をどうしても解明したいと思いました。安定状態に落ち着くまでの時間遅れを利用するために、炎同士の距離を絶え間なく動かすという発想は当初からもっていたのですが、Ju博士の協力を得てようやく整理することができました。」

中村教授はこう結びます。「この現象を学会等で紹介すると、例外なく聴講者の興味を鷲掴みにできますが、やはり例外なく応用例への質問を受けます(例:何の役に立つのですか等)。もともと私自身も興味本位で始めただけなので、あなたはどう思いますか、と質問で切り返すことを繰り返していました。それ以来、研究紹介の最初に「応用に関する質問はNGです」と伝えることにしています。応用は一切考えないと割り切り、純粋に知りたいことに没頭できることも大学での基礎研究の魅力と信じています。」

 

今後の展望

この研究の応用展開は、現在は考えていませんが、不思議な現象解明を通じて掘り下げるという、大学らしい基礎研究として、実験のみならず数値解析や理論解析を通じてさらに掘り下げる予定です。Ju博士や本研究に対して打診をいただく多くの欧米研究者と共に、国際共同研究として展開予定です。日本発の研究シーズを国際展開することで、日本ではこんな(役立たない)基礎研究が存分にできるのだ、ということを世界に向けて発信していきたいと考えています。

 

論文情報

Ju, X., Bunkwang, A., Yamazaki, T., Matsuoka, T., and Nakamura, Y., "Flame Flickering Can Cease under Normal Gravity and Atmospheric Pressure in a Horizontally Moving Dual Burner System", Physical Review Applied, Vol.19, No.1 (2023.1) eid 014060

DOI: 10.1103/PhysRevApplied.19.014060

https://journals.aps.org/prapplied/abstract/10.1103/PhysRevApplied.19.014060


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