News Release

工具上ダイヤモンド膜の不均一形成メカニズムを解明

環境負荷の少ないドライプロセスへの道を開拓

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

明らかにした不均一形成メカニズム

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概要

ダイヤモンド膜をコーティングした工具(ダイヤモンドコート工具)は、CFRPといった難削材向けの工具として利用されています。ダイヤモンドコート工具の作製においては、ダイヤモンド膜表面を均一とするため、工具上のコバルトを液体により除去する前処理が必要になります。一方で、液体による前処理(ウェットプロセス)では廃液による環境負荷が懸念され、液体を用いない処理(ドライプロセス)の開発が求められています。

豊橋技術科学大学 大学院博士前期課程 税木善則、電気・電子情報工学系 坂東隆宏助教、針谷達講師、滝川浩史教授らの研究チームは、ウェットプロセスを必要としない前処理開発に向け、まずは、コバルトがダイヤモンド膜表面を不均一にするメカニズムを明らかにしました。特に、滑らかで摩擦が小さいナノダイヤモンド膜においては、カーボンフィラメントにより不均一形成が引き起こされていることを明らかにし、カーボンフィラメント抑制が鍵となることを明らかにしました(図1)。また、本研究は、東三河を代表する企業であるオーエスジー株式会社及び本学と強い結びつきのある長岡技術科学大学との共同研究により実施し、豊橋技術科学大学としての特色ある研究となりました。

 

詳細

ダイヤモンド膜をコーティングした工具(ダイヤモンドコート工具)は、難削材向けの工具として利用されています。難削材の代表例は炭素繊維複合材料(CFRP)であり、軽くて硬い材料として、航空機や自動車の車体の軽量化といった目的に利用されています。

ダイヤモンド膜を成膜する工具としては、通常、コバルトを結合剤として用いた超硬が用いられます。成膜手法としては、熱フィラメントを用いた化学気相成長法(HF-CVD)が用いられます。図2に成膜時の様子を示しました。HF-CVDにより超硬上へダイヤモンド膜を成膜する場合、コバルト粒によりダイヤモンド膜が不均一になり、ダイヤモンドコート工具の品質が劣化することが知られています。そのため、超硬上のコバルトを液体により除去する前処理が必要になります。一方で、液体による処理(ウェットプロセス)では廃液による環境負荷が懸念され、液体を用いない処理(ドライプロセス)の開発が求められています。本研究においては、ウェットプロセスを必要としない前処理開発に向け、まずは、コバルトがダイヤモンド膜表面を不均一にするメカニズムを明らかにしました。

工具上に成膜するダイヤモンド膜には、マイクロダイヤモンドとナノダイヤモンドの2種類があり、これまでの研究ではマイクロダイヤモンドのみ不均一形成のメカニズムが提示されていました。一方で、滑らかで摩擦が少なく、工具により適しているとされるナノダイヤモンドについては知見がありませんでした。本研究では、マイクロダイヤモンド及びナノダイヤモンドについて、成膜過程を時分解して観察することで、マイクロダイヤモンドに加えて、ナノダイヤモンドにおける不均一形成メカニズムを明らかにしました。特に、ナノダイヤモンドにおいては、カーボンフィラメントが超硬基板上の粒子を持ち上げ(図3)、基板を不均一にすることで、不均一形成が引き起こされていることを明らかにしました。

 

今後の展望

本研究では、ドライプロセスにおいて、ナノダイヤモンド膜の不均一形成を抑制するためには、成膜初期段階におけるカーボンフィラメント成長を抑制することが重要であることを示しました。今後は、カーボンフィラメントの成長を抑制可能な、高温環境でのHF-CVDによる成膜手法を開発する予定です。さらに、ナノダイヤモンド膜の均一形成プロセスを確立後、実際に工具へ適用し、切削性能を検証する予定です。

 

論文情報

Yoshinori Saiki, Takahiro Bando, Toru Harigai, Hirofumi Takikawa, Takahiro Hattori, Hiroaki Sugita, Natsue Kawahara, and Kunihiko Tanaka. Sequential morphology of cobalt from cemented tungsten carbide in microcrystalline and nanocrystalline diamond films by HF-CVD. Diamond and Related Materials 132, 109643 (2023), doi.org/10.1016/j.diamond.2022.109643.

 


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