研究者らが、珍しい樹木キラヤ・サポナリアが有望なワクチンアジュバントを生成する生合成経路を明かにし、これをタバコ草で再構成した。この結果は、重要なサポニン由来ワクチンアジュバントの大量かつ持続可能な生産に向けた道を開くものである。このアジュバントへの需要が増大していることから、環境的持続性およびサプライチェーンの商業的持続性に関する懸念が持ち上がっている。キラヤ・サポナリア(Quillaja saponaria)は、QSサポニンと呼ばれる石けん様分子を産生する。この化合物は古くから医療用、あるいは石けんや食品添加物として用いられてきたが、その樹皮から抽出されるQSサポニンは、ワクチンに添加すると、目的とする免疫応答を誘導・増強するための効果的なアジュバントとなることが最近判明した。例えば、サポニン誘導体のQS-21は、すでにヒト帯状疱疹およびマラリアワクチンに用いられており、QS-7およびQS-17はいくつかのCOVID-19ワクチン候補に添加されている。しかし、その複雑な化学構造を考えると、これら非常に価値の高いアジュバントの唯一の商業的ソースは珍しいキラヤ・サポナリアの樹皮であり、世界的に利用が限られる。キラヤ・サポナリアのサポニン生合成を解明することは、持続的なQSサポニン生産のための新たな機会を提供し、将来のワクチンに使用できる新たな免疫誘導作用を有する人工サポニンの開発のために情報をもたらす可能性がある。James Reedらは、キラヤ・サポナリアのゲノムについて配列決定を行い、タバコ草において発現の組み合わせを試みて、QSサポニンの合成中間体の生産を可能にする、生合成経路の一連の16の酵素を同定した。この経路をタバコ草で再構築することで、Reedらは毒性が低く、治療応用の可能性が高いQS-7の完全な生合成を、キラヤ・サポナリア以外の植物で少量ではあるが完全に行えることを示した。この著者らによれば、キラヤ・サポナリアの完全なゲノムと包括的トランスクリプトームにより、自然界には存在しない作用を持つ人工サポニンを含む他のQSサポニンを手に入れるための、また一過性の植物発現プラットフォームにより生産するための「指示マニュアル」が得られる。「Reedらの研究は、植物由来自然製品の限られた数のリストにQS-7を加えている。完全に解明されたその生合成経路における化合物は比較的少なく、その経路を異種系で再構築して大規模生産を行うのに適している」と、関連するPerspectiveでHelena Chubatsu NunesとThu-Thuy Dangは述べている。3月23日木曜日に配信される関連するPodcastが、https://www.science.org/podcastsで閲覧できる。
Journal
Science
Article Title
Elucidation of the pathway for biosynthesis of saponin adjuvants from the soapbark tree
Article Publication Date
24-Mar-2023