News Release

「 中枢神経を標的とした核酸医薬の副作用の原因と改善法を発見 」 ― アルツハイマー型認知症などの神経難病の治療法開発に貢献 ―

Peer-Reviewed Publication

Tokyo Medical and Dental University

image: Antisense oligonucleotides for treatments of neurological diseases, directly injected into cerebrospinal fluid in spaces around the brain, may cause side effects, abnormalities of consciousness or motor function. These side effects can be predicted by calcium decrease in neuronal cells. view more 

Credit: Department of Neurology and Neurological Science, TMDU

 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 脳神経病態学分野の横田隆徳教授、吉岡耕太郎特任助教、Su Su Lei Mon特任研究員、Chunyan Jia大学院生らの研究グループは、脳や脊髄の疾患を標的とする核酸医薬の最大の課題である副作用が、神経細胞内のカルシウム調節異常が原因であることをつきとめました。そして、核酸医薬とともにカルシウム調節作用を有する薬剤を併用して神経細胞及びマウスを用いて検証したところ、有効性は保持したまま副作用を軽減することに成功しました。この研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業(RNA標的創薬技術開発)」、「脳とこころの研究推進プログラム(領域横断的かつ萌芽的脳研究プロジェクト)」、国立研究開発法人科学技術振興機構「創発的研究支援事業」、日本学術振興会(JP20K21882)などの支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Molecular Therapy - Nucleic Acidsに、2022年12月23日にオンライン版で発表されました。

 

【研究の背景】

 核酸医薬は抗体医薬に続く分子標的医薬として注目されています。特に、小児の神経難病の一つである脊髄性筋萎縮症を対象とした核酸医薬が日本も含めた40ヵ国以上で承認されて以降、脳や脊髄といった中枢神経の疾患を中心に臨床開発が急速に進んでいます。一方で、動物実験を用いた核酸医薬の開発の過程で髄腔内と呼ばれる中枢神経組織の周囲の空間に投与した際に、痙攣や意識障害、麻痺などの運動機能の異常といった副作用が出現することがあり、開発の障害となっています。更に、核酸医薬は一人一人の遺伝子の異常に応じて薬物の設計が可能であるため、超希少疾患と呼ばれるような患者数が非常に少ない遺伝性疾患に関しても個別の創薬開発が注目されています。しかし、そのような個別化治療のための創薬開発には候補薬の選別に時間的・金銭的にも大きな制約が存在します。以上から、中枢神経の疾患を標的とした際に副作用の無い核酸医薬の開発が望まれていました。そこで、本研究グループは核酸医薬の中枢神経における副作用の詳細な特徴や分子学的な原因の解明に着手しました。

 

【研究成果の概要】

 本研究グループは第1に、核酸医薬の1種であるアンチセンス核酸医薬をマウスの脳室内に投与した際に、その副作用の重症度を定量的かつ鋭敏に評価する方法の検討をしました。その結果、意識の低下や過活動、運動機能異常といった5つのカテゴリーに分類した神経機能の異常をスコア化して評価する急性忍容性スコア(Acute Toxicity Scoring System; ;ATSS)を確立しました。そのATSSを用いて、様々な伝子配列や化学修飾を有する核酸医薬を設計し、マウスに投与した際の神経毒性の行動学的特徴を解析したところ、意識の低下や自発的な運動機能の低下を来すような活動性の低下が主体であることが判明しました。

 第2に、副作用におけるアンチセンス核酸の遺伝子配列や核酸化学修飾の影響を検討しました。遺伝子配列においては核酸分子の3末端から一番近いグアニン塩基の位置により神経毒性が変化することや、核酸糖鎖骨格や核酸間結合の修飾と神経機能異常の関係性を明らかにしました。

 第3に、アンチセンス核酸の神経機能異常の主な特徴が活動性の低下であることから、分子メカニズムとして細胞内カルシウム濃度の動態変化に着目しました。そこで、ラットの大脳皮質初代神経細胞を用いて細胞内遊離カルシウムレベルを評価したところ、神経毒性を有するアンチセンス核酸は細胞内カルシウムレベルを減少させていることを明らかにしました。

 内のカルシウム濃度を調節する各種のカルシウムチャネル※2及びグルタミン酸受容体※3のアンチセンス核酸の神経毒瀬における影響を検討するために、それらチャネルや受容体のモジュレーターとアンチセンス核酸を併用して投与した際の、細胞内カルシウム濃度への影響やマウスでの神経毒性への影響を検討しました。その結果、電位依存性 カルシウムチャネルの活性化剤を併用すると、アンチセンス核酸による細胞内カルシウム濃度の低下を回復させ、マウスの神経毒性も改善することが明らかになりました。また、AMPA型のグルタミン酸受容体の拮抗薬の併用は、細胞内のカルシウム濃度低下を増悪させるとともにマウスでの神経毒性は悪化させました。逆に、AMPA型のグルタミン酸受容体の作動薬の併用は、細胞内カルシウム濃度の低下及びマウスでの神経毒性を改善させました。一方で、NMDA型のグルタミン酸受容体の拮抗薬は神経毒性への影響は認めませんでした。

 以上から、アンチセンス核酸医薬の神経系の副作用の特性や細胞内のカルシウム濃度低下による神経毒性機序が解明され、カルシウム濃度を調節するチャネル・受容体の機能を制御することで神経毒性を改善し得ることが明らかになりました。

【研究成果の意義】

 アンチセンス核酸医薬は中枢神経の病気を中心に創薬開発が精力的に行われており、パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン舞踏病といった神経難病やアルツハイマー型認知症といった頻度の多い神経疾患に対して臨床試験が進んでいます。そのため、本研究の成果は多くの神経疾患の核酸医薬の治療法開発へ広い応用が可能と考えられます。つまり、本研究の成果を基に神経毒性を回避する基盤技術が開発されることで、多様な神経疾患の治療法開発の成功に結びつくことが期待されます。

 

 

【用語解説】

1核酸医薬

核酸医薬は天然または非天然の核酸(オリゴヌクレオチド)を基本骨格として利用する医薬品であり、化学合成により製造された核酸分子が直接標的分子に作用する。既存の低分子医薬・抗体医薬では困難であった細胞内RNA分子を標的にすることが可能であり、次世代医薬品として注目されている。

※2電位依存性カルシウムチャネル

細胞内のカルシウムの流入は、カルシウムチャネルと呼ばれる分子が活性化して開口し選択的にカルシウムイオンを通過させることで調整されている。そのカルシウムチャネルには複数の活性化機構が知られており、電位依存性カルシウムチャネルは細胞膜の電気的興奮によって活性化し、その機能が制御されている。

※3 グルタミン酸受容体

中枢神経系の主要な興奮性神経伝達物質のひとつであるグルタミン酸を受容する受容体群である。その機能により代謝型とイオンチャネル型に大別され、イオンチャネル型の中でも複数のサブタイプが存在する。その中で、α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチルイソキサゾール-4-プロピオン酸(AMPA)型やN-メチル-D-アスパラギン酸塩(NMDA)型のイオンチャネル型グルタミン酸受容体はカルシウムなど陽イオンを透過することで、中枢神経系の重要な役割を担っていることが知られている。


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