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【あなたの知らない深海の世界】レアアース採掘で熱帯噴出孔の重要性を考慮しなければならない理由

熱水噴出孔を破壊すると、離れた場所の噴出孔もを脅かす可能性が明らかになりました。

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

image: Mineral-laden water emerging from a hydrothermal vent on the Niua underwater volcano in the Lau Basin, southwest Pacific Ocean. As the water cools, minerals precipitate to form tower-like “chimneys.” Image taken during 2016 cruise “Virtual Vents.” view more 

Credit: Pacific Coastal and Marine Science Center.

深海を採掘することによって、そこにある熱水噴出孔が破壊されると、そこから数百キロメートル離れた噴出孔地点にも影響を及ぼす可能性があることが研究で示されました。研究成果は、科学誌Ecology and Evolutionに発表されました。 

沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームは、海洋研究開発機構(JAMSTEC)とカナダのブリティッシュコロンビア州にあるビクトリア大学と共同研究を行い、北西太平洋の各噴出孔が互いにどのようなつながりを持っているかを明らかにしました。また、そのつながり(接続性)を維持するために優先的に保全する必要があると考えられる、特に重要な噴出孔の特定を行いました。 

OISTの御手洗哲司准教授が率いる海洋生態物理学ユニットに所属する博士課程学生で、本研究論文の筆頭著者であるオティス・ブラナーさんは、「政策立案者や採鉱企業がどの噴出孔地点を保護すべきかを判断するうえで非常に有用なツールとなる可能性があります」と述べています。 

熱水噴出孔は、地質学的に活発な水域の海底にみられる、いわば水中の間欠泉のようなもので、海底の割れ目から鉱物を含んだ熱水が噴出して、深海に極限環境をつくり出しています。きわめて高温で高圧な環境であるにもかかわらず、そこには珍しくて変わった生物があふれています。カニ、エビ、ミミズなど、噴出孔周辺に棲息する生物を支えているのは、噴出孔から出る化学エネルギーを利用してバイオマスをつくり出す細菌です。 

このような水域では、化学物質が豊富であるため生命が維持されていますが、このことは同時に、新興産業である深海採掘にとっても魅力となります。地殻から湧き出る化学物質は、冷たい海水に触れて沈殿し、「海底熱水鉱床」と呼ばれる煙突のような堆積物が形成されます。 

「これらのチムニー(煙突)には、私たちの社会が求めてやまないテクノロジーに必要な金、銀、銅などの質の高いレアアースが豊富に含まれています」とブラナーさんは説明しています。 

しかし、これらの資源を採掘すると、そのチムニーに棲息する生態系が破壊されるばかりか、同じ熱水噴出孔地点にある近くのチムニーに棲息する生物にも深刻な影響を与えることになります。 

ブラナーさんは、次のように説明しています。「多くの熱水噴出孔には、そこにしか棲息しない固有種が存在しています。ですから、その生態系を破壊してしまうと、そこの動物が失われるだけでなく、その種が完全に失われてしまうことにもなります。」 

また、ブラナーさんが現在行っている研究では、熱水噴出孔の生態系にもたらされる悪影響は、一か所にとどまらず、数百キロメートル離れた別の噴出孔地点にも影響を及ぼす可能性があることも示されています。 

熱水噴出孔は、互いに独立しているように見えますが、実はそこに棲息する生物種の多くは、幼生期に海流に乗り、ひとつの噴出孔から別の噴出孔へ分散します。幼生期に海流に流されて別の噴出孔にたどり着いた生物は、その噴出孔の条件が同じであれば(深さ、海水の化学組成、勢い、温度は噴出孔によって大きく異なる)、そこに定着して成体へと成長することができます。つまり、ある熱水噴出孔で個体群が全滅すると、その幼生がこれまで分散してきた別の熱水噴出孔でも、同種の個体群が危機に瀕することになります。 

ブラナーさんは、北西太平洋の沖縄トラフ、伊豆・小笠原弧、マリアナトラフの3つの水域の噴出孔地点に注目し、各地点に共通する種の数を比較して、他の水域とのつながりを推定しました。 

ブラナーさんなどの研究チームは、生物種のデータを基にネットワークを描出することで、それぞれの水域で重要な拠点の役割を果たしている噴出孔地点を特定しました。 

そのうち、サカイフィールドと伊平屋北海丘の2か所は、沖縄トラフ水域の接続性を維持する上で最も重要であり、優先的に保全する必要があることが明らかになりました。 

ブラナーさんは、次のように述べています。「残念ながら、サカイフィールドと伊平屋北海丘の噴出孔地点は、沖縄トラフの中央部に位置しており、採掘地としても特に関心の高い水域です。しかし、この2つの地点が破壊されてしまうと、日本中の熱水噴出孔に棲息するすべての種に非常に大きな影響を与えるでしょう。」 

また、伊豆・小笠原弧とマリアナトラフにおいて最も重要な拠点は、それぞれ日光海山とアリススプリングスでしたが、今のところ深海採掘の対象として関心は高まっていません。 

本研究では、沖縄トラフとマリアナトラフからそれぞれ伊豆・小笠原弧につながる経路の特定も行われましたが、つながりがみられたのは、採掘地として関心が高まっている水域内にある沖縄トラフの第三久米海丘など、少数の熱水噴出孔のみでした。この水域で採掘活動を行うと、北西太平洋地域全体のネットワークが崩壊する可能性があります。 

最後に、須美寿カルデラと南奄西海丘という2つの噴出孔地点は、この水域の他の噴出孔との接続性が低いことが示されました。これらの噴出孔は、北西太平洋の他の噴出孔とは大きく異なる特徴を持ち、それぞれに固有の生物が多く棲息しています。

ブラナーさんは、次のように述べています。「これらの噴出孔は、採掘を行っても他の噴出孔に影響を与える可能性は低いですが、その生態系は非常に珍しくて繊細であるため、保全する必要があります。」


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