東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 生命有機化学分野の細谷孝充 教授、坂田優希 プロジェクト助教らの研究グループは、新たに見出した環状アルキン-コバルト錯体の脱コバルト化法を鍵としたジベンゾアザシクロオクチン(DIBAC)の高効率合成法の開発に成功しました。本手法により、アジド基のような反応性の高い官能基を持った環状アルキン-コバルト錯体を容易に合成できるようになり、蛍光性化合物やタンパク質が連結した機能性環状アルキンの簡便合成にも成功しました。本合成法は、従来法と比べて官能基許容性が高く、アミド側鎖や芳香環上の機能化が容易になることから、生命科学研究やバイオ医薬品の開発に役立つ高機能環状アルキン合成への応用が期待されます。この研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)先端的バイオ創薬等基盤技術開発事業、創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業、及び、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)等の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、2022年12月13日に、アメリカ化学会の有機化学専門誌Organic Lettersのオンライン版で発表されました。
【研究の背景】
代表的なクリック反応であるアジドとアルキンの付加環化反応は、二つの分子を信頼性高く連結する手法として、ライフサイエンス・創薬・材料科学といった広範な研究分野で利用されています。その有用性から、2022年のノーベル化学賞は、クリックケミストリーと生体直交化学の開発に貢献した3名の研究者に授与されました。とくに、環状アルキン類は高いクリック反応性を示し、アジドと混合するだけで効率的に反応することから重宝されています。しかし、環状アルキンの合成には苛酷な反応条件が必要なことから、機能化の足掛かりとなる修飾用官能基を有する環状アルキンの合成は難しく、拡張性の高い合成法の開発が求められていました。
【研究成果の概要】
本研究グループは、ジベンゾ縮環型シクロオクチン-コバルト錯体の脱コバルト化法を新たに見出し、これを鍵としたジベンゾアザシクロオクチン(DIBAC)の高効率合成法の開発に成功しました。本手法により、アジド基のような反応性の高い官能基を持った環状アルキン-コバルト錯体を容易に合成できるようになり、蛍光性化合物やタンパク質が連結した機能性環状アルキンの簡便合成にも成功しました。
【研究成果の意義】
今回開発した合成法は、従来法と比べ工程数が短く、効率が良いとともに官能基許容性が高いため、アミド側鎖や芳香環上の機能化が容易になります。今後、多くの機能を併せ持った高機能環状アルキンの開発を通じて生命科学研究やバイオ医薬品の開発への応用が期待されます。
【用語解説】
※1アルキン-コバルト錯体:アルキン化合物とオクタカルボニルジコバルトを混合することで容易に生成し、古くからアルキンの保護法として知られている。生成したコバルト錯体は結合角が約140°の折れ曲がり構造をとることから、中員環合成に応用される。一般に、酸化剤を作用させることで脱錯体化が進行し、アルキンが再生するが、環状アルキンの場合には、その分子歪みのために非環状アルキンとは異なる脱錯体化条件が必要とされる。
Journal
Organic Letters
Article Title
Synthesis of Functionalized Dibenzoazacyclooctynes by a Decomplexation Method for Dibenzo-Fused Cyclooctyne–Cobalt Complexes