News Release

「 キサンタンガム系とろみ調整食品が食後血糖の上昇を抑制 」 ― 腸管の糖・脂質代謝関連遺伝子発現や腸内細菌叢を変化させることが明らかに ―

Peer-Reviewed Publication

Tokyo Medical and Dental University

image: Fig.1: Long-term consumption of the xanthan gum-based fluid thickener. view more 

Credit: Department of Dysphagia Rehabilitation, TMDU

 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 歯周病分野の片桐さやか准教授、同大学摂食嚥下リハビリテーション学分野の戸原玄教授、中川量晴准教授、長澤祐季大学院生らの研究グループは、同大学認知神経生物学分野の上阪直史教授、東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター 分子遺伝学研究部の廣田朝光准教授との共同研究で、誤嚥防止に用いられているキサンタンガム系とろみ調整食品が食後血糖の上昇を抑制し、長期摂取により回腸の糖・脂質代謝関連遺伝子発現量、腸内細菌叢を変化させることを明らかにしました。この研究は文部科学省科学研究費補助金の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Journal of Functional Foodsに、2022年11月10日にオンライン版で発表されました。

【研究の背景】

 高齢者や嚥下障害者が、誤嚥を防止するために日常的にキサンタンガム系とろみ調整食品を摂取することは少なくありません。キサンタンガム系とろみ調整食品には水溶性食物繊維であるキサンタンガムが含まれています。過去の研究から、水溶性食物繊維が、食後血糖の上昇を抑制させることが明らかになっています。しかしながら、キサンタンガム系とろみ調整食品の食後血糖への影響、長期的な摂取が、腸管や腸内細菌叢にどのような影響を及ぼすかはこれまで明らかにされてきませんでした(図1)。

【研究成果の概要】

 本研究グループは、キサンタンガム系とろみ調整食品を長期摂取した後の食後血糖への影響、腸管での遺伝子発現や腸内細菌叢の変化について評価するため、粉末状のキサンタンガム系とろみ調整食品を生理食塩水に溶解し、ラットに5週間摂取させました。摂取開始から4週後に、血糖値への影響を調べるため、経口グルコース負荷試験を行いました。その結果、キサンタンガム系とろみ調整食品を摂取させたラットの血糖値の上昇は抑制されることがわかりました(図2 A)。

 また、5週後に胃、十二指腸、空腸、回腸の各消化管を採取し、糖尿病治療のターゲットにもなっており、インスリン分泌に重要であるGlp1の遺伝子発現量を、qPCR法※3を用いて解析したところ、とろみ調整食品の摂取が回腸のGlp1遺伝子発現を増加させることが明らかになりました(図2 B)。

 次に、次世代シークエンシングを用いて回腸の遺伝子発現と腸内細菌叢の網羅的な解析を行いました。回腸の発現変動遺伝子は25個検出され、その中でキサンタンガム系とろみ調整食品を摂取したラットではGlp1rの遺伝子発現量が上昇していることが示されました(図2 C)。

 さらに、キサンタンガム系とろみ調整食品の摂取によって、腸内細菌叢にも変化が見られ、このうちErysipelotrichales目とChristensenellaceae科は、回腸のGlp1およびGlp1rの遺伝子発現と強い正の相関があることが明らかになりました(図2 D)。

 

【研究成果の意義】

 誤嚥防止に用いられる、キサンタンガム系とろみ調整食品が食後血糖の上昇を抑制することを動物モデルで明らかにしました。長期摂取により、回腸の糖・脂質代謝関連遺伝子発現量、腸内細菌叢の変化が起こることを、次世代シークエンシングの網羅的解析を用いて証明しました。得られた知見から、キサンタンガム系とろみ調整食品の摂取が糖・脂質代謝を改善する可能性が示唆され、今後の臨床応用が期待されます(図3)。

【用語解説】

※1 誤嚥

唾液や飲食物が気管に入ること。

※2 次世代シークエンシング

DNA配列を高速かつ大量に解読する装置で、遺伝子発現量や微生物由来のDNA量などを網羅的に解析できる手法。

※3 qPCR法

酵素を利用して目的の遺伝子を増幅し、遺伝子発現を定量する方法。


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