環境に優しく効率のよい冷却法を目指して、新たな冷却システムが提案された。このシステムは、ハイドロフルオロカーボンなどの液体冷媒よりも環境負荷が少ない溶媒と塩を使って、既存の冷却技術(固体状態での熱量効果に基づく方法など)を改善したものであり、溶液中のイオン濃度を変化させて相転移を引き起こす方法を利用している。このシステムを用いれば、研究者らが「イオン熱量効果(Ionocaloric)」冷却法と呼ぶ、可逆的な冷却サイクルが可能になるという。1世紀以上にわたり、蒸気圧縮技術が冷却分野を独占してきた。しかし、蒸気圧縮技術で冷媒に使用されることが多いハイドロフルオロカーボンは、環境に有害であり、気候へ重大な影響を及ぼす。それ故に、環境を破壊せず気候への影響も少ない代替物質を使うような、高効率の冷却技術を開発することが重要な目標となっている。地球温暖化により冷却が差し迫った問題になるにつれて、その重要性はさらに増している。磁気熱量効果や電気熱量効果といった熱量効果に基づく冷却は、変化する磁場や電場にさらされたときに固体材料が吸熱または発熱する現象を利用しており、期待のもてる技術ではある。しかし、そのエネルギー効率と冷却能力には多少限界がある。今回、Drew LilleyとRavi Prashherは、イオン熱量効果に基づく新たな冷却法を提案している。この方法は、エチレンカーボネート(EC)溶媒にヨウ化ナトリウム(NaI)塩を繰り返し溶かし、その際の大きな温度変化と熱吸収を利用するものである。LilleyとPrasherはその可逆過程について、次のように説明している。冷却サイクルは、まず固体のECとNaIを混ぜることから始まる。凍結した道路に道路用塩をまくのと同様に、NaIが固体から液体への相転移を起こすと、混合物の温度は下がる。その後、電気透析によって混合物からNaIを除去すると、ECが精製され、再結晶して固体に戻るときに温度が上がる。著者らによると、さまざまな試験において、イオン熱量効果に基づく冷却法は現行の冷媒と同様の冷却能力を有し、他の熱量効果に基づく冷却法よりも冷却能力が高かったという。関連するPerspectiveではEmmanuel Defayが、「LilleyとPrasherの発見によって、熱量効果をもつ材料群に新たな一員が加わった。この方法なら効率がよく、環境への負担も少ないだろう」と述べている。「将来の冷却法にとって本命候補である」
Journal
Science
Article Title
Ionocaloric refrigeration cycle
Article Publication Date
23-Dec-2022