<概要>
豊橋技術科学大学 井上隆信教授らの研究チームは、日本学術振興会二国間交流事業により「インドネシアにおけるプラスチック類の海洋への排出量の推計」(2019-2022年)を研究課題に共同研究を実施しました。インドネシアのジャカルタでは、フェンスの上部にフロートを取り付けて浮かせた装置を河川の横断面に設置して、流下するゴミを回収しています。ゴミの中に含まれるプラスチックの量を明らかにするため、この回収物を分別したところ、78%がプラスチックであり、また海洋への流出量の推計値の範囲は、7.7~12.6 g/人/日であることが分かりました。
<詳細>
マイクロプラスチックによる海洋汚染は世界的な環境問題であり、海洋生物や鳥類の体内からのプラスチックの検出が報告されています。インドネシアは世界で2番目にプラスチック類の海洋への排出量の多い国であり、また東南アジアの国々ではプラスチックゴミに限らず、廃棄物対策そのものが遅れています。都市部を除けばゴミの収集すらなく、家庭から出るゴミは家のうらや河川沿いに廃棄されています。近年、ゴミ中のプラスチック含有量は増加しているにもかかわらず、ゴミは従前通りに廃棄されていることに加え、経済発展に伴うゴミの廃棄量も増加しており、これらのゴミはスコールなど水の移動とともに河川に流出し、そのまま海洋へと流出しています。井上教授ら研究チームは、海洋へ排出されるプラスチック類の量を様々な手法を用いて推計し、その実態を明らかにすることを目的に研究を開始しました。
研究チームは、ゴミの流出に関する研究は初めてであったため、まず、データの取得方法から検討しました。学生が川の横断方向に並び、流れてくるゴミを10分間回収する方法やネットを用いた回収など、いろいろな方法を試しました。そして、ジャカルタ市内のいくつかの河川を見に行くなかで、フェンスの上部にフロートを取り付けて浮かせた装置(Floating booms)を河川の横断面に設置して、流下するゴミを回収していることに気づきました。川岸には油圧ショベルが設置され、溜まったゴミを陸揚げし、トラックに積んでゴミ堆積場に運んでいました。この回収したゴミの一部を譲り受けて分別をしたところ、ゴミに含まれるプラスチックの割合は平均で78%で、その内訳は、商店などで渡されるレジ袋とペットボトルが半分以上を占める一方、日本で現在問題視されているストローの割合は僅かでした。回収量から、このような回収装置がない場合の海洋への流出量を試算したところ、推計値は7.7~12.6 g/人/日の範囲であることが分かりました。現在、広く用いられているインドネシアからの海洋への流出量の推計値は18.9 g/人/日であり、その値よりは少ないものの多量のプラスチックが河川を通じて海洋に流出している実態を明らかにすることができました。
なお、この研究結果は、国際誌のMarine Pollution Bulletin の182号に掲載されました。
<今後の展望>
研究チームは、科学研究費「インドネシアを対象としたプラスチック類の河川からの流出量の実態調査」を今年度から実施しており、河川で直接ゴミの回収を実施していないインドネシアの都市とその近郊の農村地帯の河川を対象として、プラスチックの流出量の調査を実施しています。また、日本でも同様の調査を実施し、比較することで、インドネシアの流出量の多さを明らかにするとともに、プラスチックの海洋流出量を削減する方策について、インドネシアの研究者と共同で検討していきます。
またこの研究を通じてインドネシアの若手の環境工学研究者に環境工学の基本的な研究手法を伝えることにもつながり、環境工学研究者の質の向上を図ることも目指しています。
<論文情報>
論文タイトル:Plastic pollution in the surface water in Jakarta, Indonesia
著者名: Mega Mutiara Sari, Pertiwi Andarani, Suprihanto Notodarmojo, Regil Kentaurus Harryes, Minh Ngoc Nguyen, Kuriko Yokota, Takanobu Inoue
雑誌: Marine Pollution Bulletin
DOI: https://doi.org/10.1016/j.marpolbul.2022.114023
<謝辞>
本研究は日本学術振興会(JPJSBP120198104)の助成を受けて行われました。
Journal
Marine Pollution Bulletin
Method of Research
Experimental study
Subject of Research
Not applicable
Article Title
Plastic pollution in the surface water in Jakarta, Indonesia
Article Publication Date
13-Aug-2022