News Release

サンゴ礁の魚類群集構造に色彩パターンが影響を与えていることが判明

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

イソギンチャクを宿主とするAmphiprion ocellaris(カクレクマノミ)

image: カクレクマノミは、縄張りであるイソギンチャクに他の魚類が住み着かないようにするため、縦の白い横帯模様のある魚類に対して攻撃的な行動をとることが明らかになった。 view more 

Credit: 沖縄科学技術大学院大学(OIST) 林希奈博士

魚類の模様には視覚的な魅力もありますが、見る者を魅了する以上の機能も備えています。その模様は、捕食・被食、競争、配偶者選択などにおいて重要な役割を果たします。

サンゴ礁が広がる透明度の高い水の中では、模様などの視覚信号がコミュニケーションの重要な手段となっています。多くの魚類は、同種や他種に対して、擬態、識別、求愛などを行う上で、模様を利用します。実際、サンゴ礁に生息する魚類には横帯、縞帯、斑点などのさまざまな模様があり、脊椎動物の中で最も多様な種類の色素細胞を持っています。

そのようなサンゴ礁魚類の一種であるクマノミは、稚魚になるとすぐにイソギンチャクに住み着き、オレンジ、赤、黒などの体色に白い横帯が入った特徴的な模様をしています。しかし、この白い横帯が具体的にどのような進化機能を持っているのかは、まだ明らかになっていません。

この度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)海洋生態進化発生生物学ユニットの林希奈博士とヴィンセント・ラウデット教授および琉球大学の立原一憲教授とライマー・ジェイムズ・デイビス准教授による海洋生物学の研究グループは、サンゴ礁でクマノミ類の攻撃頻度と魚類の模様にどのような関係があるのかを調査しました。その結果、横帯模様に対するクマノミ類の攻撃頻度はより高くなることが明らかになりました。林博士を中心に行われた本研究の成果は、2022年10月5日に科学誌Proceedings of the Royal Society Bに発表されました。林博士は、次のように述べています。「今回の研究成果は、イソギンチャクの周りに生息する魚類の模様が、同居する他の魚類の行動に影響を与えることを初めて明らかにしたものです。」

本研究では、イソギンチャクの一種であるハタゴイソギンチャク(Stichodactyla gigantea)に生息するクマノミ類の一種であるカクレクマノミ(Amphiprion ocellaris)を対象とし、2020年9月から2021年10月にかけて、琉球列島の5つの地点で現地調査を行いました。また、ハタゴイソギンチャク49個体と、これらの最も近くにあるイシサンゴ49個体に生息する魚類相も調査しました。この研究について、林博士は次のように述べています。「クマノミ類は宿主であるイソギンチャクを守るために攻撃行動を取りますが、そのイソギンチャクには、他の魚類も一時的な隠れ家として身を寄せます。」

研究グループは、これらのイソギンチャクに生息する他の魚類には縦帯模様や斑点模様があることを以前より確認していましたが、横帯が入った種は見られませんでした。林博士は、次のように付け加えています。「私たちは、クマノミ類が門番の役割を果たしているのではないかと考えました。模様によって他の魚類を退けている可能性があると考えたのです。」

研究グループは、この仮説を確かめるため、プラスチック製の魚のおもちゃをカクレクマノミのコロニーの近くにつり下げてカクレクマノミの攻撃行動を記録する行動実験を行いました。研究グループは、黒地に白い縦帯や横帯を塗ったおもちゃの魚をクマノミに見せ、「追いかけ」や「噛みつき」などの行動を攻撃行動として記録しました。

その結果、宿主のイソギンチャクを隠れ家にしていた魚類には横帯がないことが判明しました。一方、周辺のサンゴには横帯模様を持つ様々な種が見られました。詳しく説明すると、クマノミ類以外の魚類が生息していたイソギンチャクの割合は全体の39%であったのに対し、サンゴの場合は100%という結果になりました。さらに、カクレクマノミは横帯模様の魚の模型に対して攻撃的な反応を示し、その攻撃時間は縦帯模様の模型に対してよりも長くなるという結果になりました。

このような結果について、林博士は次のように述べています。「イソギンチャク周辺の魚類群集は、クマノミ類が特定の模様の侵入者に対して攻撃行動の頻度を変えることによる影響を受けている可能性があります。」

この知見が今後どのような意味を持つのかという質問に対し、林博士は次のように期待を述べています。「クマノミ類の模様を認識する能力とその攻撃行動との関係を明らかにすることにより、サンゴ礁魚類の共存の仕組みやその模様が果たす役割について有益な知見が得られるでしょう。サンゴ礁のある地域では、種とその生息地の保全が重要であり、それはそこに生息する種間の相互作用を理解することにより可能となります。」

体の模様がどのように認識されるのかということや、どのような基本ルールにより種間や種内の信号伝達が行われているのかについては、まだ研究によって解明されていませんが、研究グループは今後、模様の法則が魚類の行動にどのような影響を与えているかを調査することにより、気候変動による影響からサンゴ礁周辺の生物多様性を保護することができるようになると、確信しています。


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