News Release

人類にとって重要な役割を果たすマングローブの保全を目指して

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

本研究で使用したマングローブ種であるヤエヤマヒルギ(Rhizophora stylosa)

image: 本研究で使用したマングローブ種のヤエヤマヒルギ(Rhizophora stylosa)の胎生種子は、数か月間海上で生存することができる。海流に乗って西表島と沖縄本島の間を移動することも可能である。 view more 

Credit: OIST

  • マングローブ林は、沿岸地域を暴風雨から守り、沿岸への流出物をろ過し、海洋生物の養育場となり、二酸化炭素を吸収して気候変動の緩和に一役を担など、自然と人間社会の両方にとって重要な役割を担っている。
  • そのようなマングローブ林が、農業や都市開発のために世界各地で破壊され、減少している。
  • 研究チームは、亜熱帯の琉球諸島に生息するマングローブ林の中で最優先で保全すべき地域を特定するため、マングローブ林同士の交わりの度合いを調べた。
  • 研究では、集団遺伝解析とGPS搭載ブイを用いて、沖縄本島、宮古島、石垣島、西表島の4島のマングローブを調べた。
  • どちらの手法でも、4島のマングローブ林はほとんど交わりがないことが示され、各地域でのモニタリングとその地域に特化した保全計画が必要であることが分かった。

マングローブは、世界中の熱帯・亜熱帯地域の沿岸海域に生息する樹木で、海水に強い性質(耐塩性)を持っています。マングローブ林は、自然にとっても社会にとっても重要な役割を担っています。具体的には、津波や暴風雨から沿岸地域を守る天然の防災林の役割を果たす一方、このような地域から流出する汚染物質や土壌をろ過して浄水することで自然を守る役割も果たしています。また、沿岸に生息する魚の稚魚が木々の間に身を隠しやすいため、海洋生物を養育する場にもなっています。さらに、二酸化炭素の吸収源としても重要な役割を果たし、気候変動の緩和でも一役を担っているのです。しかし現在、そのようなマングローブ林が、世界各地で農業や都市開発のために切り拓かれ、減少しています。そこで、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の御手洗哲司准教授率いる海洋生態物理学ユニットの研究グループは、現存する中で最も優先的に保全すべきマングローブ林を特定するため、日本の亜熱帯地域に位置する琉球諸島に生息するマングローブ林の交わりの度合いを調査しました。

科学誌 Frontiers in Marine Scienceに掲載された本研究論文の筆頭著者である博士課程学生のトーマス真紀さんは、次のように述べています。「この研究に至った動機は、マングローブ林の保全に役立つ成果を出したいと思ったことでした。すべてのマングローブ林を保全できれば理想的ですが、それは現実的とは言えません。そこで、私たちの研究では、優先的に保全すべきマングローブ林を特定することを目指しています。例えば、他のマングローブ林と全く交わりが無いため、破壊されると自然には再生しないようなものなどです。」

トーマスさんは、この研究により、政策決定者や環境管理機関がマングローブ林の保全を行ううえで重要な地域を特定できるようになるとつけ加えています。

マングローブの木は、水中に胎生種子という種子を落とします。胎生種子は、マングローブの種類によっては数日から数カ月間水面を漂い、発芽に適した環境を見つけると沈みます。今回の研究で使用したヤエヤマヒルギ(Rhizophora stylosa)という種の胎生種子は、数カ月間海上で生存することができます。

この研究では、集団遺伝学と海洋学の2つの手法を用いて、それぞれのマングローブ林の交わりの度合いを明らかにしました。

まず、研究グループは、琉球諸島の沖縄本島、宮古島、石垣島、西表島の4島の16か所でマングローブの試料を採取しました。

トーマスさんは、胎生種子が西表島から沖縄本島に、また逆に沖縄本島から西表島に漂着するかどうかを確かめようと、各試料から抽出したDNAの小さな断片であるマイクロサテライトDNAを用いて、異なる個体群が近縁関係にあるかどうかを調べました。例えば、西表島のマングローブと沖縄本島のマングローブの遺伝的構造が非常に類似していた場合、西表島のマングローブの胎生種子が海流に乗って沖縄本島に漂着していることが示唆されます。一方、遺伝的構造に大きな違いがある場合は、それらの個体群の間には交わりがないことを示します。

研究グループは、胎生種子を模倣した31個のGPS搭載ブイを西表島から海に放ち、海流に乗って各島の間を移動するかどうか、またその移動にどれくらいの時間が掛かるかを調べました。

どちらの手法でも、それぞれの島のマングローブ林にはほとんど交わりがないという結果が示されました。さらに、同じ西表島でも西海岸と東海岸のマングローブ林は、交わりが非常に少ないことも明らかになりました。集団遺伝学的・海洋学的解析の結果、沖縄本島では、他の地点からの加入がほぼ確認されませんでした。しかし、本島のマングローブの遺伝学的特徴は他の島のマングローブにも見られました。例えば、沖縄本島から、ずいぶん距離が離れた西表の東海岸へ移動した可能性がありました。しかし全体として、琉球列島における遺伝子の交換はまれであり、ランダムであることが示されます。GPSを搭載したブイは、一部は石垣島や宮古島に、3分の1程度は西表島に漂着し、中には韓国や中国南部に漂着したものもありましたが、ほとんどは黒潮に乗って太平洋に流されてしまいました。

では、この研究成果から、マングローブ林の保全に関してどのようなことが言えるでしょうか。

トーマスさんは、次のように述べています。「各地域の保全団体による取り組みがとても重要であるということです。それぞれのマングローブ林は、特に互いに交わりがあるわけではないので、一つのマングローブ林が失われてしまうと、自然に再生する可能性は低いということです。マングローブ林保全には、再生よりも今残っているものを保護する方がはるかに有効です。各地域に特化した保全計画を立て、それぞれのマングローブ林を地域でモニタリングする必要があります。」

トーマスさんは、「国立公園に指定され、昨年ユネスコの世界遺産にも登録された西表島を見れば、マングローブ林を保全する重要性が分かります」と言います。

「西表島は、非常に長い間保全されてきたからこそ、豊かなマングローブ林が残っているのです。」


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