News Release

見上げる、見下ろすことによって知覚する内容が変わる!

姿勢変化によって特定の見えにおける知覚バイアスの強さが変化することを発見

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

実験で使われたネッカーキューブ刺激

image: (a)上から見たような外観(b左)と下から見たような外観(b右)の2種類の知覚が生じる。 view more 

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<概要>

豊橋技術科学大学 情報・知能工学専攻博士後期課程 佐藤文昭(日本学術振興会特別研究員)、中内茂樹教授、南哲人教授らの研究チームは、見上げる、見下ろすといった姿勢変化によって、特定の見えにおける知覚バイアスの強さが変化することを発見しました。本研究では、姿勢変化が文脈効果として視知覚に反映されるのかについて調査されました。具体的には、ネッカーキューブと呼ばれる2種類の見え方を知覚することが可能な視覚刺激が実験に用いられました。実験では、バーチャルリアリティ(VR)空間内で、実験参加者の上下に刺激を呈示し、見上げる、見下ろすといった姿勢で刺激の見え方を応答してもらいました。その結果、刺激の見え方が観察姿勢に応じて変化していることがわかりました。

 

<詳細>

 私たちがものを見るとき、カメラのように映像を切り取っているように考えがちですが、その時の状況や前後の文脈に応じて、意識にのぼる見えを柔軟に変化させています。例えば、周囲の色によって対象の色の見え方が異なる「色の対比効果」はよく知られた現象です。このように知覚を柔軟に調整する方法については、未解明な点が多く、これを調査することは、私たちの視覚経験がどのように形成されるかを知るために重要であると考えられています。

私たちの視覚系は膨大な情報を処理するために、「ヒューリスティック」と呼ばれる学習を通じて得られるような経験則に従って処理されています。このことは、曖昧な図形を呈示したときにどのように解釈されるかについて調査した研究によって明らかになっています。例えば、図1に示すように2種類の見え方を知覚することが可能な立方体(ネッカーキューブ)がある場合、観察者は下からではなく上からの視点の見えが知覚しやすい傾向があります(この知覚の偏りを知覚バイアスといいます)。これは日常生活において、立方体を下から覗き込んで見るより、上から眺める経験の方が多いために生じる現象であると考えられています。このように私たちの視覚系は経験的文脈の影響を受けることが知られています。しかし、この経験的文脈が身体の姿勢変化と結びついているかについては不明でした。

 この点を明らかにするために、研究チームは前述したネッカーキューブを使用し、知覚内容の確率変化を調査しました。バーチャルリアリティ空間に5つの角度(60度,30度,0度,-30度,-60度)のいずれかに配置されたネッカーキューブの見えについて実験参加者に尋ねました。実験条件は、垂直条件の他に、統制条件として水平条件でも実験は行われました。その結果、垂直に見下ろした条件のほうが、見上げている状態よりも上から見た外観に見える確率が有意に高いことがわかりました。その一方、水平条件では有意な差はみられませんでした。

 「私たちの日常生活では上を向いて見える物体と下を向くときに見る物体の経験頻度は異なっているはずです。例えば上を向くと太陽や蛍光灯といった光源をよく目にしますが、下を向いたときにこのような光源を見る機会は稀だと思います。このような姿勢に応じた視覚経験の違いによって私たちの視覚体験は異なるのか、疑問に持ち、実験を行いました。本研究では、入力が一定であるにもかかわらず、2種類の知覚体験が可能な刺激を用いたので網膜上の情報はどの条件でも一定なはずです。にもかかわらず、知覚率が姿勢に応じて異なったということは、私たちの視覚系では、知覚内容を決定するための手がかりとして姿勢変化を用いていることを示唆しています。」と筆頭著者である博士後期課程3年の佐藤文昭は説明します。

本研究成果は、私たちの視覚系は観察者の姿勢に応じて知覚内容を柔軟に調整していることを示唆しています。

 

<今後の展望>

研究チームは、私たちの視覚系は、観察者の姿勢に応じて知覚内容を柔軟に調整されていることを示しました。この研究は、私たちの視覚がどのように表現されているかをモデル化するために役立っていくことが期待されます。また、本実験では認知的要因を反映するとされる瞳孔径についても計測されました。詳細は割愛しますが、瞳孔径は首の垂直方向の動きと密接に関係していることが示唆されました。そのため、どのようなメカニズムで知覚・瞳孔径と姿勢が結びついているのか調査することが今後の研究課題と言えます。

 

<論文情報>

Fumiaki Sato, Ryoya Shiomoto, Shigeki Nakauchi, Tetsuto Minami, Backward and forward neck tilt affects perceptual bias when interpreting ambiguous figures, Scientific reports, 12, 7276 (2022).

https://doi.org/10.1038/s41598-022-10985-4

 

本研究は文部科学省・日本学術振興会科学研究費基盤B 「瞳孔径を指標とした認知世界の変容」(20H04273), 二国間交流事業「瞳孔計測による仮想現実とのインタラクション」(120219917)の助成を受けて実施されました。また、筆頭著者の佐藤文昭は日本学術振興会科学研究費(JP21J12947)の助成を受けました。


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