image: Representative images of jumping in Wild type and Piezo1 tendon-mut/+ male mice view more
Credit: Department of Systems BioMedicine, TMDU
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科システム発生・再生医学分野の淺原 弘嗣教授、中道 亮非常勤講師は、スクリプス研究所(Scripps Research、Department of Molecular Medicine)、順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科の福 典之先任准教授、北海道大学大学院先端生命科学研究院の野々山 貴行准教授、広島大学、ブライトン大学(University of Brighton)、National Commission on Science and Technology(ジャマイカ)、岡山大学との共同研究で、機械刺激応答性カルシウムチャネルであるPIEZO1※1を腱細胞のみで恒常活性させることで、個体のジャンプ力・走行速度といった運動能力が向上することを見出しました。この研究は、米国国立衛生研究所、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)、並びに文部科学省科学研究費補助金の支援のもとおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Science Translational Medicineに、2022年6月1日にオンライン版で発表されました。
【研究の背景】
骨格筋と密接する腱、骨と骨とを接合する靭帯は全身の様々な部位に存在し、それぞれに周囲の構造から受ける力のトランスミッターとしての機能を有しています。そのため、これら組織を保つことは個体の運動能力の維持にも繋がります。しかしながら、これら組織は一旦損傷するとその自己治癒能力の低さ故に、完全には元の状態に戻らないという限界があります。そのため、これら組織の恒常性の維持機構を解明することは、健康寿命の観点からも重要であると考えられます。
これまでに私たちの研究グループでは、転写因子MKX※2が腱・靭帯組織の正常な機能発揮において重要であること、また、腱組織における機械刺激応答性の同化作用にはMKXが重要な働きを持つことを明らかにしてきました。しかし、この機械刺激を細胞がどのように感知しているのかは不明でした。私たちは既知の機械刺激応答性チャネルの中でもPIEZO1が腱細胞において高発現していることに注目、PIEZO1の恒常活性マウスを作成し腱におけるPIEZO1の役割の解明を試みました。
【研究成果の概要】
全身性、筋特異的、腱特異的Piezo1恒常活性変異マウスを作成し、個体の運動能力を調査しました。そこで、全身性及び腱特異的Piezo1恒常活性変異マウスでジャンプ能力、走行速度が向上することを明らかにしました。
全身性及び腱特異的Piezo1恒常活性変異マウスの腱組織では転写因子Mkxを含む腱関連遺伝子の発現が上昇すること、また腱組織が肥大化することを明らかにしました。
腱特異的Piezo1恒常活性変異マウスの腱組織の機械的特性として、より伸びやすい腱に変化していることを明らかにしました。
ヒトのPIEZO1恒常活性変異である西アフリカ系に特異的なE756delの発現頻度をジャマイカ人のスプリンターと一般人で調査し、スプリンターでこの変異の頻度が有意に高いことを明らかにしました。
【研究成果の意義】
研究グループは、腱細胞におけるPIEZO1恒常活性が腱の同化作用を促進し個体の運動能力を向上させることを明らかにしました。本研究成果は、腱傷害への治療応用や運動機能向上を介した健康寿命増進への応用などの発展研究へと寄与することが期待されます。
【用語解説】
※1機械刺激応答性カルシウムチャネルレセプターPIEZO1
機械刺激を感知して細胞内シグナルへと変換させる機能を持つ膜タンパク質です。2010年にScripps ResearchのArdem Patapoutian教授らのチームが発見しました。2021年にはArdem Patapoutian教授はこの発見を含む一連の研究が評価されノーベル医学・生理学賞を受賞されています。
※2転写因子MKX
MKX (Mohawk homeobox)は転写因子であり、淺原グループの研究により腱・靭帯の発生や恒常性維持に重要であることが明らかになってきています。
Journal
Science Translational Medicine
Article Title
The mechanosensitive ion channel PIEZO1 is expressed in tendons and regulates physical performance
Article Publication Date
1-Jun-2022