News Release

アルミナを洗濯して再利用、触媒機能をもつエコ吸着剤: 香料や医薬品の原料化合物を環境に優しい方法で合成

A more sustainable method of synthesizing vital building blocks for the manufacture of perfumes, pharmaceuticals and useful organic chemicals.

Peer-Reviewed Publication

Kobe University

図1.

image: 図1. 市販されているアルミナ粉末 view more 

Credit: 津田明彦

神戸大学大学院理学研究科の津田明彦准教授(内蒙古医科大学薬学院(注1) 客員教授を兼務)と、同研究科で博士号を取得した内蒙古医科大学薬学院の额尔敦教授と梁凤英講師の国際共同研究チームは、中国原産のアルミナを使って、香料や医薬品の原料となるジフェニルメタノール誘導体を、簡単・低コスト・低環境負荷で合成することに成功しました。アルミナを水洗いして乾燥させると何度でも再生利用できることを見出し、原材料および廃棄物を削減して、合成コストおよび環境負荷を小さくすることができました。世界における環境意識の高まりの中、カーボンニュートラルおよびSDGsに貢献する新たな化学品合成法となることが期待されます。

本研究成果は2021年4月に中国で特許出願し、同年9月の優先権主張出願を経て、2022年5月18日に、関連の学術論文がChemistryOpenにweb掲載されました。

ポイント

  • 中国で大規模に生産されているアルミナ [生産量世界第1位; 7748万トン (2021年), 出典:JOGMEC 金属資源情報]の、触媒機能、吸着機能、リサイクル機能など、有機合成における種々の有用な機能を発見。
  • 安価な塩化アルミニウム触媒によって、汎用有機溶媒のクロロホルムとベンゼン誘導体を反応させて、それを水分を含むアルミナで処理するだけの簡単なプロセスで、ジフェニルメタノール誘導体を高収率で得ることができた。
  • 高価で特殊な装置や薬品が不要であり、アルミナは水洗いして乾燥させることで何度も再利用でき、安全・安価・簡単に合成が可能。
  • 低エネルギー・低環境負荷の新たな化学反応として、カーボンニュートラルおよびSDGsに大きく貢献する科学技術となることが期待される。
  • 神戸大学で学位を取得した外国人研究者の帰国後の研究活動を支援して得られた国際共同研究の成果。

研究の背景
アルミナは、化学式がAl2O3で表されるアルミニウムの両性酸化物で、主に金属アルミニウムの原料として使われています(図1)。一方、有機合成化学分野においては、触媒としても使われますが、高温高圧などの過酷な条件を必要とする反応での利用がほとんどであり、対象となる化学反応の範囲が小さいなどの理由から、一般的な触媒としてはあまり用いられていません。また、有機合成における不純物の吸着剤や、クロマトグラフィー(注2における固定相などにも使われますが、高い原材料費や、多量の不燃性廃棄物が出るなどの問題から、他の方法で代替される傾向にあります。そのような背景において、津田准教授は中国の内蒙古医科大学薬学院の研究グループを指揮して、中国で大規模に生産されているアルミナを用いる新たなサスティナブル有機合成法の開発に取り組んできました。

津田准教授は2017年から内蒙古医科大学薬学院との国際共同研究を開始し、2018年から同学の客員教授を兼務して、現地メンバーの研究活動を指揮してきました。内蒙古自治区原産の鉱物や植物などの天然資源を使って、医薬品やポリマー、そして機能性材料などの共同開発に取り組んできました。2021年11月には、神戸大学大学院理学研究科と内蒙古医科大学薬学院が学術交流協定を締結して、対組織間でのより活発な研究活動を行っています。

研究の内容
津田准教授と内蒙古医大の国際共同研究チームは、中国原産のアルミナを触媒および吸着剤として利用して、香料や医薬品の原料となるジフェニルメタノール誘導体を、簡単・低コスト・低環境負荷で合成する方法を発見しました(図2)。汎用有機溶媒のトルエン、キシレン、もしくはトリメチルベンゼンを、塩化アルミニウム(AlCl3)を触媒として、クロロホルムと反応させて、その生成物を水で後処理すると塩素化物(1)が主に得られますが、同じ生成物を水を含んだアルミナに投入すると、ジフェニルメタノール誘導体(2)が得られ、また、メタノールを含んだアルミナに投入するとメタノール置換体(3)が得られることを発見しました。アルミナ表面に吸着した生成物と水もしくはアルコールが反応して、それらの生成物が得られたと考えられます。また、使用した触媒や副生した不純物などはアルミナに吸着され、純度の高い生成物を得られることがわかりました。これらの方法を用いて、生成物(1)–(3)を選択的に作り分けることができるようになりました。

しかし、市販のアルミナは比較的高価であり、それを多量に使う本反応は実用化には不向きと考えられました。そこで、使用後のアルミナを水洗いして、乾燥させて再利用を試みたところ、触媒能と吸着能が再生していることを発見しました(図3)。この操作は何度も繰り返すことができることから、材料コストおよび廃棄物を大幅に削減することができます。実験室レベルでの合成実験は数グラムから数十グラムスケールで実施しており、反応は数時間で完結し、収率も高く、安全であるため、アカデミアから化学産業まで幅広い分野での利用が可能と考えられます。実用的なサスティナブル有機合成法として社会での利用が期待されます。

[更に詳細な手順とメカニズム]
クロロホルム (30 mL, 0.37 mol) と p-キシレンなどの芳香族化合物 (1 mL, 8 mmol) の混合液に 塩化アルミニウム (1.1 g, 8 mmol) を0 ℃で加えた後、6時間撹拌します。その後、得られた試料溶液を市販の中性アルミナカラム(含水率〜1 wt%)に滴下し、乾燥クロロホルム/酢酸エチル(1:1)を溶離液とするカラムクロマトグラフィーに付することで、ジフェニルメタノール誘導体を94%程度の収率で得ることができます。必要に応じて、再結晶などの精製を行うことによってより純度の高い生成物を得ることができます。

本反応のメカニズムは、クロロホルムと芳香族化合物のFriedel-Craftsアルキル化反応によって生成する生成物と塩化アルミニウムの錯体がアルミナ表面に吸着されて、同様に吸着されている水分子と水和反応を引き起こすことによって、生成物を与えていると考えられます。したがって、生成物を取り出した後のアルミナに吸着されている副生成物や触媒は、水で洗い流すことによって剥がれ落ち、乾燥させることによって、アルミナが再生すると考えられます。

今後の展開
本研究で発見したアルミナの新たな触媒・吸着・リサイクル機能は、ジフェニルメタノール誘導体以外にも様々な有機合成に応用することが可能と考えられます。反応の適用範囲を幅広く拡大し、より一般的な合成法として、様々な化学品合成への応用を目指します。

世界における環境意識の高まりの中、ここで開発した新たな化学反応はマテリアルリサイクルを可能にし、カーボンニュートラルおよびSDGsに貢献する新たな化学品合成法となることが期待されます。有機合成化学および有機化学産業に新たなイノベーションを引き起こすことが予想され、アルミナ生産量世界第1位の中国で本国際共同研究をさらに発展させることで、より実用的かつスケールの大きな社会実装が期待されます。

研究体制と支援について
本研究は、内蒙古医科大学薬学院と神戸大学大学院理学研究科による国際共同研究として行われました。研究の実施にあたっては、国家自然科学基金地区科学基金(NSFC) 課題番号21961026「部分π-共轭大环结构分子机器的研发」による支援を受けて実施しました。

用語解説
注1 内蒙古医科大学
内蒙古自治区政府に属する医学専門大学。中国の少数民族自治区で最も早期に設立された医科大学の1つで教育部「卓越医学生育成計画」実施校に指定されている。
注2 クロマトグラフィー
気体、液体、超臨界流体を移動相とし、筒型の管の中に保持された固定相と物質の相互作用によって混合物を分離、検出する分析法

特許情報
発明の名称:二苯甲醇衍生物的制备方法(ベンズヒドロール誘導体の合成方法)
(中国)国内出願:特願202110401595.1 [出願日2021年4月14日]
(中国)優先権主張出願:202111035281.0 [出願日2021年9月5日]
発明者:额尔敦,津田明彦
出願人:内蒙古医科大学

論文情報
タイトル

“Direct Syntheses of Diphenylmethanol Derivatives from Substituted Benzenes and CHCl3 through Friedel-Crafts Alkylation and Post Hydrolysis or Alcoholysis Catalyzed by Alumina”
DOI:10.1002/open.202200042

著者
苏日古嘎 (Guga Suri) +,[a] 梁凤英(Fengying Liang) +,[a] 胡密霞 (Mixia Hu),[a] 王美玲 (Meiling Wang),[a] 布仁 (Ren Bu),[a] 张笑迎 (Xiaoying Zhang),[a] 王慧 (Hui Wang),[a] 董文艳 (Wenyan Dong),[a] 额尔敦 (Chaolu Eerdun),*[a] 津田明彦 (Akihiko Tsuda)*[a,b]
* Corresponding author, + Equal contribution
[a] 内蒙古医科大学薬学院
[b] 神戸大学大学院理学研究科

掲載誌
ChemistryOpen
 


Disclaimer: AAAS and EurekAlert! are not responsible for the accuracy of news releases posted to EurekAlert! by contributing institutions or for the use of any information through the EurekAlert system.