東京大学 生産技術研究所の芳村 圭 教授と吉兼 隆生 特任准教授は、機械学習を用いて局地降水を予測する新たな手法を開発しました。数値予報モデルでは対応が困難である複雑な地形に対応した局地的な降水の推定を可能にします。
山岳などの地形は降水の形成に強く影響します。そのため、山岳周辺で地域ごとに降水特性(降水頻度分布、降水量等)が著しく変化します。例えば、季節風が卓越する冬季において、三国山脈などの複雑な山岳の影響により、10 km程度離れた地点間でも気候特性が大きく異なります。したがって、水災害リスクや水資源量を精度良く推定するためには、地域詳細の気象予測が必要です。近年のスーパーコンピュータの飛躍的な進化と数値予報モデルの発展により、気象予測の精度が大幅に向上しました。しかし、複雑な地形等に強く影響された局地気象の予測精度向上には数値予報モデルの高解像度化が必須であり、膨大な計算機資源を必要とします。また、局地気象は、海域や陸域(植生や都市など)の状況が複雑に関係するため、要因を把握して数値予報モデルを改良することが極めて困難です。
局地気象の予測は生活には欠かせないものであり、天気状況に関連したさまざまな自然現象の変化パターン(天気パターン)を利用した予測(観天望気)が古くから行われてきました。これは、局地気象が天気パターンに深く関係して形成していることを示唆しています。一方、数値予報モデルは、天気パターンに対応した広域での気象現象(例えば温暖前線や寒冷前線等に伴うメソスケール降水システム)については極めて高い予測性能を有しています。そこで、数値予報モデルシミュレーションによる広域での降水形成特性とその中心地点での観測された降水(局地降水)との間に何らかの関係性があると仮定し、その関係性を機械学習でパターン認識することにより局地降水の推定を試みました。
実験結果から、本手法では、数値予報モデルシミュレーションに見られた誤差を大幅に低減し、地形に対応して形成する降水特性の推定が可能であることを示しました。また解析結果から、仮説通りに機械学習が広域でのメソスケール降水システムの形成パターンを認識していることが明らかになりました。これにより、機械学習を用いた手法が持つブラックボックス問題を軽減し、解釈可能性が向上しました。
実際の地形影響を反映した局地降水を推定できる本手法を利用することにより、河川流量や水位、土壌水分量の予測に必要な地域詳細の降水予測精度が改善され、水災害リスクを低減することが期待されます。
Journal
PLOS Water
Article Title
A bias correction method for precipitation through recognizing mesoscale precipitation systems corresponding to weather conditions
Article Publication Date
12-May-2022