映画『ファインディング・ニモ』で有名になったカクレクマノミ。このオレンジと白の可愛らしい魚が、科学研究に役立つ大きな可能性を秘めているのです。カクレクマノミを用いた研究により、仔魚が外洋でどのように拡散するかという疑問から、サンゴ礁の魚類が気候変動にどのように対処するかという疑問まで、生物学上の多くの疑問に対する答えを導き出すことができます。このような疑問に対する答えを見つけるため、この度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームは、カクレクマノミ(Amphiprion ocellaris)の包括的なゲノムを構築し、その研究成果をG3: Genes|Genomes|Geneticsで発表しました。
本研究論文の二人の筆頭著者のうちの一人であり、OIST海洋生態進化発生生物学ユニットのポストドクトラルスカラーであるマルセラ・エレラ・サリアス博士は、次のように説明しています。「カクレクマノミの設計図と言えるこのゲノムは、生物分野の科学者にとって非常に役立つツールになります。」
同ユニットを率いるヴィンセント・ラウデット教授は、「カクレクマノミは、生態学、進化、適応、発生生物学などの研究のモデル生物として用いることができます」と付け加えています。
熱帯地域や亜熱帯地域に生息するカクレクマノミが生きていくためには、イソギンチャクやサンゴ礁が必要です。気候変動によりサンゴ礁が減少すると、他の多くのサンゴ礁に棲む魚類と同様、個体数が減少すると予想されています。カクレクマノミは、「ニモ」と同じクラウンアネモネフィッシュによく似ていますが、生息地が異なります。カクレクマノミは沖縄県、東南アジア、フィリピン、オーストラリア北西部に生息していますが、クラウンアネモネフィッシュは、オーストラリア北東部や太平洋諸島の一部に生息しています。数年前にクラウンアネモネフィッシュのゲノムが公開されたため、比較研究のためにカクレクマノミのゲノムも同様に公開することになったのは、自然な流れでした。
カクレクマノミのゲノムは先行研究でも得られていましたが、本研究では、はるかに質の高いものを構築することができました。その理由は、ゲノムを染色体単位で構築したためである、と研究チームは強調しています。
カクレクマノミのゲノムは、細胞のひとつひとつにある総合的な取扱説明書のようなものです。その中には、カクレクマノミが生きていくために必要なすべての情報が含まれています。この取扱説明書は、染色体という各章に分かれており、その染色体は遺伝子という各ページに分かれています。先行研究において公開されたカクレクマノミのゲノムは、遺伝子やその塊が散在した状態のもので、それらが染色体上でどのように配置されているかはほとんど明らかになっていませんでした。今回の研究で構築されたゲノムは、より完成度が高くなっています。
本研究では、沖縄県の恩納村で採取したカクレクマノミからDNAとRNAを抽出し、シークエンシング技術を用いて染色体単位でゲノムを構築しました。これにより、生物学のいくつかの疑問に対する答えが明らかになってきました。
この2種のクマノミが属するクマノミ亜科は、全部で28種います。研究チームは、これら2種に共通していて、他の26種にはないと思われる遺伝子を特定するため、両種のゲノムを比較することにしました。
本研究プロジェクトを主導したOISTの海洋気候変動ユニットのグループリーダーであるテーウー・リュウ博士は、次のように述べています。「進化の面から言うと、これら2種のクマノミは、同じ亜科の他の26種とは異なります。これらの2種が特別なものになった原因を突き止めたいと考えています。」
研究チームは、2種のカクレクマノミのゲノムには残されており、他の26種にはない70の遺伝子を発見しました。これらの遺伝子の中には、他の種にもまだ残っているものもありましたが、少し異なっていました。さらに、これらの遺伝子の一部は神経生物学的な機能に関連しており、これら2種のクマノミの行動や生態に影響を与え、他のクマノミ類との間に違いが生まれた可能性が高いことも判明しました。
本論文の責任著者であり、海洋気候変動ユニットを率いるティム・ラバシ教授は、次のように締めくくっています。「公開されたゲノムから、すでに研究成果が出始めており、気候変動に関するクマノミの研究をさらに進める上で大きな可能性を秘めています。今回の研究成果は、他の実験を始めるための新たな基盤となります。」
Journal
G3 Genes Genomes Genetics
Method of Research
Experimental study
Subject of Research
Animals
Article Title
A chromosome-scale genome assembly of the false clownfish, Amphiprion ocellaris
Article Publication Date
30-Mar-2022