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DNAが接着剤に: DNAの力により自力で組織化するゲルブロックを作製

DNA断片同士の分子間相互作用によって自己組織化を起こすことで、比較的大きな構造を形成することが可能であることを示しました。

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

DNA二重らせん分子の塩基対形成

image: 塩基対形成は非常に特異的なプロセスであるため、対合するDNA鎖の設計に利用することができる。本画像は、プレスリリース「DNAが接着剤に: DNAの力により自力で組織化するゲルブロックを作製」の関連画像です。 view more 

Credit: OIST

  • 本研究では、非常に小さなDNA鎖を用いて、大きなハイドロゲルブロックの自己組織化を促した。
  • 本研究で用いたハイドロゲルブロックは、DNAによって組織構造を形成するようプログラムされた物体の中で、これまでのところ最大である。
  • これらのハイドロゲルブロックは、表面に固定された、互いに対合するDNA鎖を通じて、選択的に自己組織化することができる 。
  • 本研究では、ハイドロゲルブロックが自己組織化して、異なる色が交互に並ぶ枝状構造を形成したり、自ら色別に異なるグループに分かれるようプログラムした。
  • さらに本研究において、ブロック同士を接合させているDNA鎖同士の対合を阻害することで、ハイドロゲル集合構造を分解できることも示した。

沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームは、特殊な顕微鏡でしか見ることのできない非常に小さいDNAの鎖を用いて、肉眼で見ることができるゲル状の物体(ゲルブロック)の規則的な集合体の構築を促すことに成功しました。

米国化学会誌(Journal of American Chemical Society)にこの度掲載された本研究では、表面にDNA鎖を付けた最長2ミリメートルのハイドロゲルブロックを溶液に混ぜたところ、およそ10~15分で自己組織化することを報告しました。

本論文の筆頭著者で、OIST核酸化学・工学ユニットのポストドクトラルスカラーであるヴェンカット・ソンタケ博士は、本研究について次のように説明します。「私たちが今回作製したハイドロゲルブロックは、組織構造を形成するようDNAによってプログラムされた物体の中で、これまでのところ最大のものであると考えています。」

「自己組織化」は、個々の構成要素が相互作用することで組織構造が自然に形成されるプロセスであり、自然界ではよく見られるものです。細胞やDNAは、自己組織化により驚くほど複雑な微小構造を形成することができます。しかし、分子レベルの相互作用を利用して、肉眼で見える巨視的な物体の組み立てを促す研究は、比較的新しい分野であり、DNAを使用して行う研究は、特にそうです。

本論文の責任著者で、核酸化学・工学ユニットを率いる横林洋平教授は、「私たちがDNAを選んだ理由は、DNAには配列を認識する非常に優れた能力があり、プログラムしやすいためです。」と述べています。

二本鎖DNAの分子は、2本の一本鎖DNAが互いにねじれて二重らせん状になって形成されています。2本のDNA鎖は、塩基(AとT、CとG)がジグソーパズルのように対合することで結合し、保たれています。この特異的な塩基対形成能力を利用することで、対をなすDNA鎖と正確に対合して結合するDNA鎖を設計することができます。

今回、研究チームが行った実験の1つでは、赤と緑に色分けされたハイドロゲルブロックの表面に、一本鎖DNA分子を付着させ、赤いブロックのDNA鎖と緑のブロックのDNA鎖が対合するようにしました。

それぞれのハイドロゲルブロックを溶液に入れて振ると、対合するDNA鎖同士が組み合わさり、赤と緑のブロックを接合する「接着剤」のような役割を果たしました。10分後、各ブロックは自己組織化し、異なる色が交互に並ぶ単純な枝分かれ構造を形成しました。

注目すべき点は、赤と緑それぞれのDNA鎖が別のブロックの同じDNA鎖と相互作用しなかったため、同じ色のハイドロゲルブロック同士は接合しなかったことです。

研究チームはさらに、特定の配列のみを認識するDNAの能力を検証するため、4対のDNA鎖を設計しました。そして、最初の一対でできた1本鎖DNAを、赤いハイドロゲルブロックの表面に付着させ、さらに、緑、青、黄色のハイドロゲルブロックにも同様の作業を行いました。

全色のハイドロゲルブロックを合わせて振ると、様々なDNA配列が存在するにもかかわらず、対合するDNA鎖同士でしか結合が起こりませんでした。その結果、それまで混ざり合っていたハイドロゲルブロックが、自ら色別に異なるグループに分かれました。

「これは、自己組織化が非常に特異的におこるプロセスであり、プログラムがしやすいことを示しています。DNA配列を変えるだけで、ブロック同士がさまざまな方法で相互作用するように誘導することができるのです」と横林教授は説明しています。

本研究ではまた、DNAを使用して、自己組織化だけでなく、構造体の分解をプログラムできるかどうかも調査しました。対合する2本の一本鎖DNAを設計し、さらに1本目の一本鎖DNAの一部と対合する3本目の短い一本鎖DNAも作りました。そして、1本目のDNA鎖と、それに対合する短いDNA鎖をハイドロゲルブロックに付着させて溶液中で混ぜると、自己組織化が起こりました。その後、1本目のDNA鎖と対合する長いDNA鎖を溶液に加えると、1時間かけて長いDNA鎖が短いDNA鎖に置き換わり、ブロック集合体が分解されました。

「これは、DNAを"接着剤 "としてハイドロゲルブロックをくっつけると、このプロセスを完全に元に戻すことができるということを意味し、非常に驚くべきことです。また、個々の構成要素も再利用できるということです」とソンタケ博士は述べています。

これまでに形成した構造は単純なものですが、研究チームは、より多様なブロックを構造に組み込んだり、異なるDNA鎖をブロックの特定の面に固定したりして、より複雑な構造をつくりたいと考えています。また、ハイドロゲルブロックをさらに大きくすることも計画しています。

横林教授は、次のように述べています。「これはまだ基礎研究ですが、将来的には、この技術を組織工学(ティッシュエンジニアリング)や再生医療に応用できる可能性があります。ハイドロゲルブロックの中にさまざまな種類の細胞を入れて、新しい組織や臓器を作るために必要な複雑な3次元構造を組み立てることができるようになるかもしれません。」

「ですが、応用の可能性はともかく、相互作用するDNA鎖といった微小な化学変化を目の当たりにできるのは素晴らしいことです。これが科学の面白いところです。」


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