News Release

高分子太陽電池の高性能化の決め手になる添加剤の働きの可視化に成功

~ナノスケールでの発電ネットワーク解明~

Peer-Reviewed Publication

Nara Institute of Science and Technology

image: Improvements in the device performance by addition of a solvent additive A and B (left). Photocurrent flowing in the polymer solar cells, which is visualized at nanometer scale by PC-AFM (right). view more 

Credit: Hiroaki Benten

【概要】

奈良先端科学技術大学院大学(学長:塩﨑一裕)先端科学技術研究科物質創成科学領域有機エレクトロニクス研究室の山形侑嗣(当時博士前期課程2年)、辨天宏明准教授、中村雅一教授らのグループは、高分子太陽電池の作製時に用いる溶媒添加剤の働きをナノ(10億分の1)メートルのスケールで可視化することに世界で初めて成功しました。

高分子太陽電池は、電子(マイナスの電荷)と正孔(プラスの電荷)をそれぞれ輸送する2種類の高分子(共役高分子)を溶かした液体を電極上に塗って膜状に固めるだけでできます。このため、製膜条件の最適化が発電性能向上の鍵となります。これまで、溶媒添加剤と呼ばれる溶媒(高沸点溶媒)を製膜溶液にごく少量加えることで発電性能が向上することが経験的に知られていましたが、その仕組みは詳細に理解されていませんでした。

そこで、研究グループは、ナノ空間の領域での電流-電圧特性を計測できる走査型プローブ顕微鏡という装置を駆使して、添加剤を加えて作製した太陽電池内を流れる光電流を可視化しました。その結果、添加剤を加えた太陽電池内では、共役高分子でできた膜構造の秩序化が進み、生成した電荷を外部電極に効率よく輸送するネットワークがナノスケールで形成することを突き止めました。

本研究にて明らかになった溶媒添加剤の働きは高性能化の指導原理として高分子太陽電池の開発に広く応用可能であると期待できます。

この研究成果は、2021年12月27日付でACS Applied Polymer Materialsにおいてオンライン公開されました。

【解説】

高分子太陽電池は共役高分子を溶かした溶液を電極上に塗って製膜することで簡単に作製できる。太陽電池内部では、正孔(プラス電荷)と電子(マイナス電荷)の輸送を担う二種類の共役高分子がナノメートル(10-9 m)スケールでの相分離構造を形成しており、光を吸収して、電荷を生成し、輸送するという光電変換の機能を果たしている。膜内の相分離構造は製膜に用いる溶媒の種類に大きく依存することから、最適な溶媒の選択が高性能化の鍵となる。これまで、溶媒添加剤と呼ばれる高沸点溶媒を製膜溶液にごく少量加えることで発電性能が向上することが経験的に知られていた。しかし、非常に小さく複雑な相分離構造が有する光電変換特性を直接評価することは難しく、その仕組みは詳細に理解されていなかった。そこで我々のグループでは、ナノ空間領域での電流-電圧特性を計測できる走査型プローブ顕微鏡(PC-AFM)を駆使してこの問題を解決した。太陽電池を作製し電池内を流れる光電流をナノスケールで可視化した結果、添加剤を加えることで共役高分子の構造秩序化が進み、生成した電荷を外部電極に効率よく輸送するネットワークが形成することを突き止めた。

【背景と目的】

現在広く普及しているシリコン結晶太陽電池は、重量的な制約から使えない場所がある。そのため、軽量かつ高効率な太陽電池の必要性が今後増してくると考えられている。p型(プラス電荷を運ぶ)とn型(マイナス電荷を運ぶ)の半導体材料として共役高分子を用いる「高分子太陽電池」はその有力候補の一つである。また、高分子材料が持つ特長を活かして、室温で高速・大量生産が可能であるなど、低炭素社会の実現に資する次世代エネルギー変換技術の一つとしても注目されている。一方で、その発電性能は有機系太陽電池の中で最も低く、社会実装に向けた応用研究へのステージ移行には高性能化が課題となっている。高分子太陽電池の性能向上は新材料の開発に頼るところが多く、これまで、製膜プロセスの部分には明確な指針がなかった。試行錯誤的に用いられてきた溶媒添加剤の働きを解明することで、製膜プロセスの点から高性能化の指導原理を提示することを目的としている。

【今後の展開】

共役高分子の種類によっては溶媒添加剤の効果が限定的であることも知られている。しかし、PC-AFMによる計測・評価は共役高分子の種類に関係なく可能であり、今回検討していない種類の溶媒添加剤も含めて研究対象を広げ、高分子太陽電池における溶媒添加剤の働きの全容を明らかにしていく。

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【掲載論文】

タイトル: Nanoscale observation of the influence of solvent additives on all-polymer blend solar cells by photoconductive atomic force microscopy

著者: Yuji Yamagata, Hiroaki Benten, Toshiki Kawanishi & Masakazu Nakamura

掲載誌: ACS Applied Polymer Materials

【研究室ホームページ】

https://mswebs.naist.jp/courses/list/labo_10.html

【用語解説】

共役高分子:主鎖に沿ってπ共役構造を持つ高分子で、光吸収や電荷輸送能を有する有機半導体。

高分子太陽電池:正孔(プラス電荷)と電子(マイナス電荷)を輸送する二種類の共役高分子を混ぜ合わせた膜を用いて太陽光から光電流と光起電力を生み出す太陽電池。有機系太陽電池の一種。

PC-AFM:Photoconductive atomic force microscopy(光照射型電流計測原子間力顕微鏡)


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