<概要>
豊橋技術科学大学電気・電子情報工学系の博士後期課程 蒲生 浩忠、永井 篤志 特任准教授、松田 厚範 教授らの研究グループは、全固体リチウムイオン二次電池用の固体電解質であるLi7P3S11の液相合成において、誘電率から特徴づけられる溶媒の極性が結晶性Li7P3S11の形成に重要な役割を果たすことを実証しました。系統的に調査した溶媒の中で、高い誘電率を有するアセトニトリル(ACN)は、チオリン酸リチウムの反応性を高め、高伝導性を有する結晶性Li7P3S11の形成を可能にするため、Li7P3S11の液相合成における反応溶媒として最適であることを明らかにしました。本成果により、全固体電池の量産性の高い製造技術開発が期待されます。
<詳細>
全固体電池は、高い安全性およびエネルギー密度を示すため、次世代電池として注目されており、特に電気自動車への応用が期待されています。全固体電池の実用化には、高イオン伝導性を示す硫化物固体電解質の大量合成技術が要求されます。固体電解質の合成方法の中でも、液相合成は、低コストかつ量産に適しているため、有力な合成方法です。液相から合成したLi7P3S11固体電解質は高い導電率を示すため、全固体電池のための固体電解質の候補の1つですが、結晶性Li7P3S11の液相合成に及ぼす溶媒の影響については、系統的な調査がなされていませんでした。
そこで、研究グループは様々な物理的・化学的特性を有する8つの有機溶媒を選択し、Li7P3S11の液相合成における反応に溶媒種が与える効果を明らかにしました。検討した溶媒の中でも、1,4-ジオキサン(Dox)とテトラヒドロピラン(THP)、ACN溶媒を用いることで結晶性Li7P3S11が形成し、高い誘電率を持つ有機溶媒においてより高い導電率が得られるという傾向を見出しました。また、高い誘電率を持つ溶媒を適用した試料ほど、熱処理過程において高い温度で脱溶媒和を引き起こしました。これは、溶媒の誘電率がチオリン酸リチウムとの化学的な相互作用の強さの指標になることを示唆します。一般的に、溶媒中の反応性は誘電率や双極子モーメント、ドナー数などで特徴づけられますが、Li7P3S11の液相合成では誘電率が高い溶媒において高い反応性が生じることが分かりました。
また、乾燥処理の観点から、低沸点の溶媒が好ましく、これら複合的な特性からACNが高伝導性を有する結晶性Li7P3S11の液相合成にとって最適な反応溶媒であることを実証しました。
<今後の展望>
私達の研究チームは、全固体電池のための固体電解質の有力候補であるLi7P3S11の液相合成において、Li7P3S11固体電解質の高い導電率を実現するための溶媒選択として重要な指針を見出したと考えています。本研究で得た溶媒選択の指針を基に、全固体電池の量産技術開発に発展させたいと考えています。
<論文情報>
Hirotada Gamo, Atsushi Nagai, and Atsunori Matsuda, The effect of solvent on reactivity of the Li2S–P2S5 system in liquid-phase synthesis of Li7P3S11 solid electrolyte, Scientific Reports, (2021). doi.org/10.1038/s41598-021-00662-3
本研究は、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構のSOLiD-EV project (JPNP 18003) の一環として実施されました。
Journal
Scientific Reports
Method of Research
Experimental study
Subject of Research
Not applicable
Article Title
The effect of solvent on reactivity of the Li2S–P2S5 system in liquid-phase synthesis of Li7P3S11 solid electrolyte
Article Publication Date
26-Oct-2021