News Release

世界の海鳥の50%にプラスチック添加剤の汚染が広がっていることを、 世界16地域32種の海鳥の分析から明らかにしました

Peer-Reviewed Publication

Tokyo University of Agriculture and Technology

image: Photo : Great Shearwater and ingested plastics taken by Peter Ryan view more 

Credit: Hideshige Takada/ TUAT

国立大学法人東京農工大学大学院農学研究院物質循環環境科学部門の高田秀重教授と水川薫子助教の研究グループは、世界18の研究機関の研究者と共に、世界の海鳥の50%にプラスチック添加剤汚染が広がっていることを世界16地域32種の海鳥の分析から明らかにしました。海鳥へのプラスチック添加剤の影響について調べることが必要です。

本研究成果は、日本環境化学会の英文誌Environmental Monitoring and Contaminants Research (2021年1巻) に10月11日に掲載されます。URL:https://doi.org/10.5985/emcr.20210009,  雑誌Homepage : https://emcr- journal.org/

現状

プラスチックに含まれる添加剤の海鳥組織への移行は飼育実験で明らかにされていましたが(注1)、その広がりについては明らかにされていませんでした。

研究体制

国内8大学・研究機関、アメリカ、オーストラリア、南アフリカ、スペイン、エクアドル、アイルランド、など海外10大学・研究機関の24人の研究者が研究を行いました。

研究成果

今回両極域、赤道域を含む世界16箇所で32種、145個体の海鳥の尾腺ワックス(注2;図)中のプラスチック添加剤(臭素系難燃剤と紫外線吸収剤)の分析を行い、半数以上(76個体、52%)の個体から添加剤を検出し、プラスチック添加剤による海鳥の汚染が地球規模に広がっていることを世界で初めて明らかにしました(図)。特に、ハワイのシロハラミズナギドリと⻄オーストラリアのアカアシミズナギドリでは胃内にプラスチックが検出された個体で添加剤濃度が高い結果となりました。ハワイのアホウドリや亜南極海のアオミズナギドリやズクロミズナギドリなどプラスチック摂食の報告のある鳥でも、高い濃度の添加剤が検出されました。添加剤は餌生物からの寄与もありますが、餌からの寄与をPCBsの濃度との比較などで考慮しました。結論として、今回分析した個体の10%〜30%が摂食したプラスチックから直接添加剤を濃縮していることと推定されました(図)。

今後の展開

今回の結果は、海洋プラスチック汚染が世界中の海の生物に広がっていることを示す結果であり、海洋へのプラスチックの流入を抑える対策の履行が急務であることを示すものです。今後、これらの添加剤による生物 への影響について調べることが必要です。例えば、アカアシミズナギドリの雛についてプラスチック摂食量と血中尿酸濃度の相関が確認されています。また、ハワイのシロハラミズナギドリは絶滅危惧種です。これらの種についてプラスチック摂食および添加剤の影響を調べることが必要です。

用語解説

注1) 海鳥の雛に添加剤(臭素系難燃剤と紫外線吸収剤)を練り込んだプラスチックを与えると海鳥の脂肪、肝臓、尾腺ワックスに添加剤が蓄積することを飼育実験で明らかにしています。飼育実験の結果はTanaka et al., 2020で発表しています。

Tanaka, K., Watanuki, Y., Takada, H., Ishizuka, M., Yamashita, R., Kazama, M., Hiki, N., Kashiwada, F., Mizukawa, K., Mizukawa, H., Hyrenbach, D., Hester, M., Ikenaka, Y., Nakayama, S.M.M., 2020. In Vivo Accumulation of Plastic-Derived Chemicals into Seabird Tissues. Current Biology 30, 723-728.e3. https://doi.org/10.1016/j.cub.2019.12.037

注2) 尾腺ワックスとは鳥の尾羽の付け根の尾腺という器官から分泌される脂です。鳥はこの脂を羽根に塗布することで羽根に撥水性を持たせています。尾腺ワックスが脂であるがゆえ、親油性の化学物質が蓄積・濃縮されていることから、海鳥の化学物質汚染を調査する手段として用いられています(Yamashita et al., 2007)。尾腺ワックスを使った調査の利点は、海鳥を傷つけることなく、生きた鳥から採取して、その海鳥への化学物質の曝露状況を知ることができる点です。今回プラスチック添加剤の海鳥への曝露状況を知る目的で、世界32種145個体の海鳥の尾腺ワックスの分析を行いました。Yamashita, R., Takada, H., Murakami, M., Fukuwaka, M., Watanuki, Y., 2007. Evaluation of Noninvasive Approach for Monitoring PCB Pollution of Seabirds Using Preen Gland Oil. Environ. Sci. Technol. 41, 4901-4906.

◆研究に関する問い合わせ◆

東京農工大学大学院農学研究院 物質循環環境科学部門 教授 高田秀重(たかだ ひでしげ) 

E-mail:shige(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp


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