<概要>
豊橋技術科学大学 Mohammad Shehata准教授の研究チームは、カリフォルニア工科大学、東北大学の研究者らと協力して、チームフロー(複数の人間が協調して「ゾーン」に入った状態)に関係する脳波と領域を、チームフローに関係のないチームワークやソロフロー(個人が「ゾーン」に入った状態)と比較することで発見しました。この研究は、チームフロー時の心理状態を客観的に研究する世界初の試みです。今回発見したチームフローと脳活動の相関は、チームフロー体験の理解と予測に利用できるだけではありません。研究者らは、今回の研究成果をチームのパフォーマンスのモニタリングや予測に活用することを目指しています。
<詳細>
チームフローとは、チームのメンバーが協調して「ゾーン」に入って一緒にタスクを達成するときに経験する状態です。チームがチームフローの状態にあるとき、通常の限界を超えて調和のとれた極めて高いパフォーマンスを発揮することがあります。サッカーやバレーボールなどのスポーツやダンスチーム、音楽バンド、さらにはプロの仕事のプロジェクトチームなど、優れたチームはこの心理的現象を経験しています。
チームフロー状態を科学的に調べるためには、チームフローの状態を実験室で再現し、客観的に測定することが不可欠ですが、これは何十年もの間大きな課題となっていました。
豊橋技術科学大学エレクトロニクス先端融合研究所とカリフォルニア工科大学の研究者らは、この問題を克服する方法を発見し、チームフローの神経科学的な証拠を初めて明らかにしました。研究チームは、実験参加者が2人1組で音楽ビデオゲームをプレイしているとき、それぞれのプレーヤーの脳波を同時に測定しました。実験ではフロー状態をコントロールするために、通常のプレイ環境の他に、プレイ中にお互いの顔が見えないようにパーティションで区切り、ソロのフロー状態は可能だがチームでのフローは不可能な状態にしたり、音楽を編集してランダムな音列にすることで、フロー状態になることが不可能でチームワークを保つことは可能な状態にしました。実験参加者に各ゲームの後に質問に答えてもらい、フロー状態のレベルを評価しました。
実験後、さまざまな状態(ソロフロー、チームワーク、チームフロー)にあるゲームプレイヤーの脳活動を比較しました。その結果、チームフローの状態では中側頭皮質で、ベータ波とガンマ波が増加していることが判明しました。また、チームフロー状態では通常のチームワーク状態に比べて、チームメイトの脳活動がより強く同期することもわかりました。
本研究は、ビジネス、スポーツ、音楽、舞台芸術、ゲーム、エンターテインメントなど、人のパフォーマンスや喜びが重要な分野において、脳神経モデルに基づいたより効果的なチームビルディング戦略に活用できる方法論を提供するものです。研究者らは、政府機関や産業界と協力して、チームのパフォーマンスをモニタリングしたり強化したりすることによって、さらに効果的なチームを構築するために、本研究成果を活用することを計画しています。
また、楽しさを維持しながらパフォーマンスを向上させることは、うつ病やパニック障害、不安症の発生率を低減するなど、生活の質の向上につながる可能性があります。
本研究は,次の助成を受けて行われています。研究大学強化促進プログラム(豊橋技術科学大学)、科学研究費補助金(国際共同研究(B),助成番号18KK0280),日本科学技術振興機構(JST)-CREST助成番号JPMJCR14E4、香港大学一般研究費、オーストラリア研究評議会のディスカバリー・プロジェクト(DP180104128およびDP180100396)、オーストラリア政府の研究者育成プログラム(RTP)奨学金
<論文情報>
Mohammad Shehata, Miao Cheng, Angus Leung, Naotsugu Tsuchiya, Daw-An Wu, Chia-huei Tseng, Shigeki Nakauchi, and Shinsuke Shimojo (2021). Team flow is a unique brain state associated with enhanced information integration and inter-brain synchrony, eNeuro, https://www.eneuro.org/lookup/doi/10.1523/ENEURO.0133-21.2021
Journal
eNeuro
Method of Research
Imaging analysis
Subject of Research
People
Article Title
Team flow is a unique brain state associated with enhanced information integration and inter-brain synchrony
Article Publication Date
4-Oct-2021